こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

JACET北海道支部大会で講演します(7月15日夕方)

大学英語教育学会(JACET)北海道支部 2021年度支部大会

2021年7月14日(水)~15日(木)オンライン(Zoom)

基調講演:寺沢拓敬「〈学術的〉英語政策研究のあり方」

プログラム・参加方法等詳細は支部ウェブサイトに掲示されています

中部地区英語教育学会(6月27日)で発表します

https://www.celes.info/aichi2020/program/

ウェブ調査をはじめとした非確率標本の補正:英語教育における意識調査・実態調査への応用

本報告では、非確率抽出の質問紙調査の補正方法を概観し、英語教育研究・応用言語学における意義を論じる。


この分野では、英語使用や英語教育に関する人々の行動・態度・意見について質問紙調査が行われることがあるが、そのほとんどは、確率標本抽出(=ランダム抽出)ではなく、非確率標本抽出(便宜抽出やスノーボール抽出、調査会社のモニターを利用したウェブ調査)である。よく知られているように非確率標本には代表性の点で問題が多いが、英語教育学界で具体的な改善策が議論されることはほとんどない。現状は、「安易な一般化には気をつけるべし」と注意喚起が行われているのみだろう(ただし具体的にどう気をつけるべきかは議論されない)。


一方、計量社会調査の分野では、非確率標本調査(とくにウェブ調査)を補正・改善する方法に関して議論が蓄積されつつある。そして、これは英語教育の調査でも、いくつかの条件をクリアすれば、容易に実行可能である。したがって、利用を積極的に検討すべきである。


その条件とは、具体的には、(1) 当該の非確率標本調査に、既存の確率標本調査と共通する設問が含まれている、(2) その共通変数の情報は、前者を、後者の構成比に近づけるのに役立つ、(3) 分析者に回帰分析の基本的な知識・技術がある(補正のための汎用ソフトが存在しないため)の3点である。


本報告では、発表者が行った英語使用実態調査(ウェブ調査)を素材にして、実際に上記の3点がいかにクリアできるか、そしてどのように補正値が推計できるかを示す(具体的には、傾向スコアを用いた層化重み付け法による補正を報告する)。そのうえで、補正後の値がどれだけ質の改善に寄与したかを評価する。最後に、この補正方法が、英語教育研究の別のタイプの調査(たとえば、ESPや意識調査)にどのように応用できるか議論する。

図解:ルイ=ジャン・カルヴェ『言語政策とは何か』

ルイ=ジャン・カルヴェ『言語政策とは何か』を久々に読んだ。意識高い界隈で流行っているようなので、本の内容について自分にだけわかればよいというノリで図解しました。

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この本は、大学院進学の直後に読んだ。当時(約15年前)は、言語政策を冠した和書で手に取りやすいものはこれくらいしかなかった。

ほぼ知識ゼロだったので、その時は、「トピックがとっ散らかっていてよくわからん」と思ったが、再読したら全然そんなことはなかった。むしろ、短い分量にもかかわらず、よく練られた章立てだと感心するほど。当該テーマへの背景知識が豊かになると、ロジックが追える(逆に言えば、ある作品が「非論理的」に見えるのは知識不足だから)というのの好例だろうか。

唯一、(世界の言語状況にはそこそこ知識はありつつも)「言語政策」の初学者が、若干困惑してもおかしくないなあと思ったのが、言語政策における「政策」の独特の射程。1章の一部および2章全体が、狭義の「政策」(権力による介入行為)を越えたものを扱っている部分は、つまづきのもとかもしれない。もっとも、これはカルヴェの独自さというより、言語政策研究自体が「政策」についてそういう境界設定をするということである。

2章までで読者が「ぜんぜん政策の話でてこないやん、俺はいったい何読まされてるんだろう・・・」と息切れしてしまうと、3章以降との連関が理解できなくなってしまう。自分もこんな感じで「とっちらかっている」という印象を受けたのかもしれない。

コロナ禍での体重変化

タイトルのような大げさな話ではないですけど、意味もなく体重データを取ってたのでブログ化にて成仏とします。

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点は測定した日。2日以上連続して測定した場合、線も描画。19年11月~20年3月や21年1月~の空白は面倒くさくて測定をしなかったため。

新型コロナの直後に急激に体重が減っているように見えますが、コロナ禍とは関係なし。2020年3月末、いつのまにか体重が増えている事実にびっくりして、4月からカロリー制限(というほどのものではなく単に炭水化物とお菓子を食べる量を減らしただけ)を始めた結果です。食べる量を減らして筋トレで基礎代謝を増加(実際のところは「微増」)するだけでけっこうやせますね。

ちなみに、入浴前(夕食のおよそ1時間後)に測定するようにしてましたが、コロナ禍で思いがけず、生活が規則的になったため(夕食・入浴の時刻はほぼ毎日同じになりました)、日による変動はかなり小さく、我ながら良い精度だなと思いました。

6月13日言語政策学会シンポジウムに登壇します。

次回研究大会のお知らせ | 日本言語政策学会



言語政策学会シンポジウム:2050年へ向けた日本の言語政策・再

6月13日(日曜日)14:30〜16:30



予稿集の下書きは以下。

今後の言語政策研究に必要な論点:英語教育政策研究を事例に - こにしき(言葉・日本社会・教育)

ベルギー:どのようなタイプの学校で、言語政策プログラムが実際に実施されやすいか?(Vanbuel & Van den Branden, 2021)

LEP読書会 第2回で読んだ論文。

  • Marieke Vanbuel & Kris Van den Branden (2021) Each primary school a school-based language policy? The impact of the school context on policy implementation, Language and Education, 35:1, 42-59.

ベルギー・フランデレン地域における school language policy という施策が、各学校でどれだけ実施されるかという問い。典型的な implementation studies である。分析法は、計量と質的のミックス。

RQ

SLP施行 ← 「学校の文脈」という変数

分析モデル整理

ちょっと分析の中身がややこしい(分析手法の問題というより、ぜんぶ文章で説明してあるため)ので、図式化して整理する。


サンプル 結果変数 学校文脈+個人変数(原因変数)
学校単位 SLP有無 オランダ語話者、学校規模、教員の平均年数
管理職チーム単位 チーム献身認知 オランダ語話者、学校規模、教員の平均年数 + 教員個人の経験年数
チーム反省性認知 同上
阻害要因認知 同上
教員単位 個人的献身度 同上
協力度認知 同上
支援認知 同上

コメント

  • チームの献身度・反省性・阻害要因認知や、個人的献身度・協力度・支援認知は、implementation の指標に含めてよいのか。よいのだとすると、どういう定義(拡張的定義)を採用するとOKになるのか。
    • 教師自体を「出先機関」とみなす? (cf. street-level bureaucracy)
    • こういう定義拡張は、SLPの中身がわからないと適とも不適とも言い難いが、中身を調べる余裕がなかったのでお手上げ。(たとえば、「英語は英語で」政策の implementor として現場の教師を想定するのは妥当だろう)
  • 「学校文脈変数でざっくり説明、ブラックボックス感が残る部分は、質的研究で補強」というデザインなんだろうけれど、学校規模や非オランダ語話者率みたいなマクロな変数よりは、行財政的な制約要因で説明したほうが個人的には好み。前者の分析は、政策実施分析等よりは、教育社会学的な相関関係記述研究みたいに見えてしまう。

  • 問題設定の転用可能性

論文出ました:小学校英語の政策過程、臨教審&90年代中教審

PDFはこちら:http://hdl.handle.net/10236/00029282


ちなみに「小学校英語の政策過程(2)」と銘打っているとおり、シリーズものです。その1本目はこちら。今回の(2)で完結の予定です。