Lambert, C. P. 2001. The Viability of Learners' Beliefs and Opinions as Input for Second Language Course Design. RELC Journal, 32(1), 1-15.
念のため注記しておくと、上記論文が、標題のような問題関心に基づいているわけではなく、私が勝手に「深読み」しただけ。この論文は、短大の女子学生に対して3回にわたって質問紙調査を行い、彼女らの英語学習上の信念・意見のうち、どのようなものが変わりにくいかを検討したもの(アブストラクトはこちら)。
質問項目は、
- Reasons for attending college
- Reasons for majoring in English
- Learning objectives
- Content interests
- Methodological preferences
- Assessmentpreferences
- Desired occupation after graduation
のように大別される。このなかで、《日本社会における英語》をテーマとしている私にとって、大きな関心があるのは一番最後の質問項目、つまり「職業」である。日本社会で英語をめぐる諸現象を検討する場合、EFL環境ということもあり、最も重要なコンテキストは「教育」だろうが、英語と職業(=つまりポスト「学校教育」期)の関連も近年いっそう深くなってきているだろう。そもそも、英語教育、特に高等教育における英語教育を正当化するうえで持ち出される重要な根拠のひとつが、《いかに英語が「社会」に出たとき役に立つか》というものであり、英語教育と職業は、それほど無関係なものではない(蛇足ながら、教育一般と職業の関係については、例えば本田由紀著『教育の職業的意義』(中公新書、2010)などを参照)。
Discussion の部分で、著者は、今回調査した進路「希望」の結果と、過去の実際の進路の結果を比較し、将来的なニーズと意識の間に大きなギャップがあるということを(おそらく真剣に取り組むべき問題として)指摘している。とはいえ、人文系でしかも短期大学であれば、自然科学・社会科学系の大学生に比べて、将来の進路が漠然としていることも(したがって、就職活動前の「希望」と実際の「就職先」に違いがでることも)無理もないことだと思うが。
それ以上に興味深いのは、希望する職業(厳密には、「卒業後の進路」)である。以下の表は、Table 3 を改変したもので、数値は、1998年時点(短大2年次)の質問紙調査の結果で、1〜5の5件法で尋ねられたものの平均値である(と思う。また、「5件法」の各選択肢がどのようなワーディングなのかも不明。熟読していないので、見落としているだけかもしれない)。
空港グランドスタッフ | 3.36 |
海外留学 | 3.13 |
ホテル(サービス・案内) | 3.05 |
旅行会社 | 3.01 |
通訳 | 2.74 |
スチュワーデス(ママ) | 2.70 |
翻訳家 | 2.48 |
大学へ編入 | 2.45 |
旅行ガイド | 2.44 |
銀行 | 2.43 |
主婦 | 2.38 |
英語教師 | 2.31 |
秘書 | 1.86 |
英語以外の教師 | 1.70 |
正直なところ、これを見て、《英語英文科出身者らしい》仕事とは、これくらいしかないものなのか...と驚いてしまった。もちろん、前述の通り、人文系は必ずしも大学の専攻と仕事が直結しないことのほうが多いので、レパートリーが多くないのも納得はできる。ただ、逆に見れば、これらがそのまま「英語を仕事で使っている社会人」のロールモデルとして、意識されているものであるということは言えそうだと思う。そして、その「ロールモデル」が、全社会人中に占める割合はかなり小さい。空港グランドスタッフ・スチュワーデスや、旅行関連産業、翻訳・通訳業のシェアはかなり小さく、圧倒的多数は(おそらく)一般企業や官公庁の事務職として雇用されるだろうからだ。
また、「一般企業で(英語を使いながら)仕事をする」という、いわば《仕事の内容が主、英語はツール》的な選択肢がないのは、短大特有のキャリアパスが影響しているのだろうか。
蛇足ながら、「英語教師」が意外と順位が低いのが気になった。これも、短大ではなければ、かなり様相が変わると思う。