こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

「日本の外国語教育政策における英語」WE誌


KOIKE, Ikuo & TANAKA, Harumi (1995), English in foreign langauge education policy in Japan: Toward the twenty-first century. World Englishes, 14, 13–25. doi: 10.1111/j.1467-971X.1995.tb00336.x

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-971X.1995.tb00336.x/abstract


英語教育政策研究の著名な先生方が書いた論文。


歴史とか何やら色々書いてあるが、結論部分に日本の外国語教育政策を特徴づける7つの要因が書いてある。以下に書き写す。

1. 自然環境:日本列島の地形、気候
2. 日本人のメンタリティ:同質性、排他性
3. コミュニケーションストラテジー:本音と建前を使い分ける
4. 社会構造のハイアラーキ:士農工商儒教的な歴史的構造が現代にも通じている
5. 日本語の構造:欧米言語との言語的距離が大きい
6. 教育レベルの高さ
7. 翻訳法の伝統


以上の「結論」が本文での詳しい議論もなしに導かれている。特に、上記2、3、4に関しては根拠らしいものは少しも触れられていない。


論文前半は日本および日本の教育の通史的な解説にあてられているが、英語教育史の先行研究が一切引用されていない。論文の倫理面から言って問題があるように思われる 。


また、上記「2. 日本人のメンタリティ」とか「3. 本音と建前を使いわけるコミュニケーション」とか「4. 現代にも生き残る士農工商」とか、日本人論(神話)にまみれていて、日本をよく知らない研究者にあまり紹介したくはない。

これを歴史研究・政策研究と呼べるかはかなり微妙だが、日本語が読めない研究者からは英語教育政策史の基礎文献として見なされつつあるようなのでたいへん気が重い。


招待論文なのか投稿論文なのかは知らないが、もっとマジメに研究・執筆してもらえないのだろうか。この水準のものが「国際誌」に載ってしまうのは、(無駄に権威主義に染まった)院生が「英語教育政策史ってこの程度でいいんだ」と思ってしまいかねない。