こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

2015年、今年の3冊

「今年の3冊」を選んでみたい。今年は(今年も)たいして本を読まなかったし、ことに新刊に関してはぜんぜん読まなかったので、選ぶのは逆に楽だった。

筒井淳也著『仕事と家族』

日本社会の「生きづらさ」の源泉である(と思う)、仕事と家族。この2つが相互に強く結びつきながら私たちの生きづらさを形作っているというのが本書のモチーフである。「日本人は仕事愛が強い」とか「性別分業を是とする男女が多い」という個人の内面"だけ"に原因を求めず、日本社会に埋め込まれた種々の構造が不可避的に多くの「生きづらさ」を生んでいることをデータに即して説得的に論じている。

蛇足ながら、妻(研究者ではない)は私の本を一向に読まないのに、筒井さんの本は面白い面白いと言って読んでました。ほとんどの人に馴染みのある問題を取り扱ってるにもかかわらず、目から鱗が落ちまくる名著。

高史明著『レイシズムを解剖する』

レイシズム、とくに在日朝鮮人に対する差別のメカニズムを丁寧に検証している。著者は社会心理学者だが、狭い意味での社会心理学にとどまらない、多様な視点・方法論が特筆に値する(たとえば、2章のツイッター上におけるヘイトスピーチの分析)。

保城広至著『歴史から理論を創造する方法』

歴史研究に関する方法論を論じた本だが、単なるハウツーではない――というよりも、ハウツーの部分はほとんどない。つまり、実務的関心からではなく、理論的関心から歴史研究の方法論を論じている。「なぜ(わざわざ)歴史研究を選択するのか?」という抽象的な問いが深められているが、この問いは裏返せば「なぜ計量研究や質的研究ではないのか」であり、その意味で、歴史研究とは無縁の計量屋・質的屋にも避けては通れない問いである。


以前書いた書評:保城広至著『歴史から理論を想像する方法』(勁草書房, 2015) - こにしき(言葉、日本社会、教育)