勤務先の教員紹介ページ用に、自己紹介(研究内容・略歴等)を書きました。せっかくなのでこちらにも転載します。
社会と言語(とくに英語)の関わりについて社会科学的な観点から研究しています。
特に次の5つのテーマに関心があります。
- 英語をめぐる世論
- 英語教育の「制度」
- 仕事と英語
- 外国語教育学の方法論
- 批判的応用言語学
具体的には、以下のようなテーマです。
英語をめぐる世論
日本社会に暮らす人々にとって英語にはそれなりの存在感がありますから、誰もが何かしらの「意見」を持っています。たとえば、「大好き」とか「嫌いだけど勉強しなきゃ…」とか「小学校から英語を始めるべきだ」とか。はたまた「周りはごちゃごちゃ言っているけど私の人生とは関係なし!」と言う人もいるでしょう。こうした様々な意見・態度はどのような構造になっているか、計量分析を駆使して研究しています。
英語教育の「制度」
私たちのほとんどは学校教育を通じて英語を学んできました。この学校英語という制度は、当然ながら、自然に生まれてきたものではなく、意図して創られてきたものです。その典型が教育政策です。私の関心の対象の一つも政策で、関係者が英語教育政策をどのように創ってきたかを研究しています。
一方、そういった公的な制度だけでなく、伝統や慣習などというものも、広い意味での「制度」と見なすことができます。伝統・慣習は、現在の私たちの行動・考え方を当たり前のように規定しますが、過去のある時点では間違いなく誰かに創られたものだからです。この広義の「制度」も私の研究テーマのひとつです。たとえば誰もが義務教育において英語を学ぶことは現在当たり前のことだと考えられていますが、こういう「当然視」がどのように生まれてきたのかを研究しています。
仕事と英語
英語に関するビジネス言説の計量分析も私が研究してきたテーマです。「ビジネスにおける英語使用ニーズは年々増加している」とか「英語ができれば給料が増える」とか「英語はキャリアアップの武器になる」とか様々なことが言われています。こうした言説を、統計データを用いて検証しています。
外国語教育学の方法論
日本の英語教育学では、実は「日本社会と英語の関係はどうなっているか」という問いはあまり検討されてきませんでした。不思議に思うかもしれませんが、日本だけでなく「本場」の英語圏でも、英語教育学は言語学と心理学の強い影響下にあり、社会科学的な研究は弱いと言わざるを得ません。
この「弱点」が問題になってしまうのが英語教育政策です。残念ながら日本の英語教育政策はきちんとした学術的根拠に基いて行われてきていません ――これは、たとえば英語力テストが高度な学術的根拠に基いて制作されているのとは対照的です。英語教育政策がうまくいっていない原因の一部には、社会科学的・政策科学的方法論が充分に英語教育学に浸透していない面があると思います。よりよい政策を組み立てるには何をなすべきか、方法論の面の検討を行っています。
批判的応用言語学
日本だけでなく世界的に外国語教育学や社会言語学は長らく言語の非政治的な側面に焦点を当ててきました。しかしながら、近年こうした「伝統」は反省され始めています。主に欧米で隆盛しつつある、批判的応用言語学(critical applied linguistics)がそのひとつです。このアプローチでは、言語教育や私たちの言語使用を、広い意味での政治経現象として理解します。日本にはまだほとんど浸透していませんが、だからこそ、このアプローチをより多くの人に広める必要を感じています。
自己紹介
私の専門は強いて言えば社会学ですが、既存の学問分野の境界をウロウロしています。
私は大学院生の頃から日本社会と言語の関わりというテーマに取り組んできました。とくに、英語教育について社会学的に研究してきました。教育を社会学的に研究するということなので、要は教育社会学です。実際、「教育社会学を研究している人間」というラベルが最もしっくり来る時期が長かった気がします。
一方、英語教育研究者や小中高の英語教員とも頻繁に交流しており、また、社会学部の英語教育にも携わっているため、英語教育研究者としてのアイデンティティも持っています。
また、ここ数年は、必ずしも「英語」「教育」を直接対象としないテーマにも着手しています(たとえば、グローバル化と日本国内の多言語主義との関係)。こうした事情もあり、言語現象の社会学という意味で「言語社会学」と自己紹介することもあります。