こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

6章. インターナショナル「一条校」の憂鬱

以下の続き。



Poole, G & Takahashi, H. 2015. Effecting the "Local" by Invoking the "Global": State Educational Policy and English Language Immersion Education in Japan. Horiguchi et al. (Eds.) Foreign Language Education in Japan, 85-102. Sense Publishers.
http://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-94-6300-325-4_6

概要

国内の2つの「日本的」なインターナショナルスクール/イマージョンスクールのエスノグラフィー。調査対象の2校とも仮名になってるがググればわかるレベルの記述満載。群馬と沖縄。
理念的にはどんなに「グローバル/国際的」なものを追求したくても、ローカルとの力学との衝突で「日本的グローバル」に屈折させられてしまうという話が悲喜劇テイストで書いてある。こういう書き方はちょっと皮肉が効きすぎじゃないかと読んでるこっちがなぜかハラハラしてしまった。

6.1. Introduction

日本の英語教育と broader cultural debate
Questions: how language education reflects cultural debates

Research Fields (本文では明示していないけど)
(1) JIS: Joshu International School (pseudonym)
(2) NIS: Nanto International School (pseudonym)

6.2. JIS

歴史

・自治体主導だったので当初は職員の一部も自治体職員。
・地域住民としては、なぜ自分たちのための予算の一部が、一部のエリート(しかも児童生徒の多くは市外在住者)のために使われるのかという反感があった。

教育理念

・小学校校長(Dr. Good) は「クリティカルシンキングとかプロジェクトベーストを育てるための学校」という教育理念を据えていた(据えたかった)が、一方で、同校の役員会や家族はイマージョン/英語のためのインターという意識が強く、には必ずしも共有されなかった。

教員、生徒、親

・Some parents are "over-involved"
・ネイティブ教師と日本人教師のティームティーチングは、グループによってうまくいっているものとそうでないのものが。
・保護者にとって、 "open classrooms" とか "methodology of leaning through L2" といったリベラルな教育観は、英語の実用能力育成に比べれば重要ではなかった。
・日本人役員会:進学校(高校)や良い大学に入れたい(名声につながるから)→この結果、社会科は日本語で教えることに。→Dr. Goodの辞任につながる

コミュニティとの関係

格差社会を反映しているJIS→ほとんど全ての家庭が専業主婦を可能にするだけの裕福な家庭(日本社会は共働き化しつつあるが、そうしたトレンドとはずれている)。
・公立校教師は子どもをJISに送らなかった。(公立校教員のプライド)
・エリートを対象にしているため「学校は地域のニーズに答えていない」という地域住民の声。そもそもポルトガル語のほうが地域ニーズにはあっている。

6.3. NIS

学校の歴史

・インターだけど一条校:背景に、OIST(沖縄科学技術大学院大学)の設置。海外から有能な研究者を呼び寄せるためにはインターナショナルスクールが必要。というわけで自治体がバックアップし、その関係で一条校となった。
・インターとはいえ、一条校なので学習内容は日本的色彩が強い。

教師、生徒、親

・当初の目論見とは異なり受験者は日本人ばかり(9割以上):背景の一つが「募集を日本の学期カレンダーに基いて行ったから」
・授業料が高く、OISTの研究者でも若い親は子どもを通わせられなかった。
・英語がL1の生徒はほとんどいなかったので、校内の2つのコース――インターナショナルコースとイマージョンコース――に実質的な差はなくなっていた。
・通わせる親:英語での苦労の経験、国際結婚家庭

コミュニティとの関係

学校は2011年の東日本大震災の直後に開校。余震や放射能汚染を恐れた家族が移住。沖縄には私立小学校が少なく、私立小に通わせる余裕のある親にとって同校は良い選択肢となった。

6.4. 結論

一条校の認可を得られたことが「グローバル」な教育を行うことへの足かせとなった。Alternative education is marginalized.
・英語力や国際交流の機会は豊富に提供できたが、日本の学校では重視されない「グローバルスキル」の育成についてはあまりないと感じられた。その結果、既に英語ができる子どもや国際経験が豊かな子どもには魅力なものに映らなくなった→その結果、1年目におよそ50名もが学校をやめて、県内の他のインター/アメリカンスクールに移る。
・英語格差に関する議論、2 paragraphs (pp. 97-98):裕福な家庭の子どもは、国際的な機会へのアクセスが豊富にあり、そうした経験を成長につなげられる。
・イマージョン教育は us/them という二項対立的を超えるような異文化理解を養う可能性を秘めているが、私たちが調査した2校のデータにはそれを裏付けるものはなかった。
・「国際」をうたっているけど、日本的なものを棄却できないというジレンマ: Typical Japanese school activities and cultural practices ... reinforces the "Japaneseness" of the schools. 入学式、卒業式、運動会、学芸会、うわばき
・子供といえば、1990年代から2000年代初めにいわれたようなアイデンティティ・クライシス問題(Downes, 2001)に直面しているようには見えなかった。