こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

小学校英語を成功に導く要因、事例研究(Hayes, 2014)

本書の目的はタイトルの通り、小学校英語を成功に導く要因について。文献研究中心の事例研究である。

拙著『小学校英語のジレンマ』の問題関心にかなり近いが、実証手続きがゆるふわすぎてアレだった。事例研究部分でとりあげられたのが韓国、オランダ、フィンランドの三国だが、いずれも根拠としている文献の量が驚くほど少なく、網羅性に疑問が残った(そもそも各章の記述量自体がかなり少ない)。中にはブログ記事も含まれていた。また、EF社の英語力指標やTOEFLランキングに基づいて議論しているところもどうかと思う。

ブリティッシュ・カウンシルにバックアップされた研究だということもあり、頻繁に「重要文献」として引用されるが、このクオリティの研究を引用するのはちょっと権威主義がすぎると思う。君ら、ちゃんと内容(の質)を理解しているのか。

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印象に残ったのが、小学校英語の成功の秘訣は教科専門教員よりも generalist primary class teachers (学級担任)が担当することだと述べている部分。主張をサポートしている具体的根拠はよくわからない。この手の問いは、専科教員と学級担任を比較するようなデザインで事例研究なり実証研究しないと多くは言えないのでは?

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これは著者に同情せざるを得ない点。Large-N international comparative studies は、現地語にいちいち精通するのはかなり大変なので英語でやらざるを得ないが、英語で書かれた現地の小学校英語事情の文献は少ない。もっとも、各国の英語教育政策にフォーカスした論文は国際ジャーナルでも頻繁に載っているが、特定の理論枠組みに則らないと査読は通りにくいので、いきおい当該理論にとって周辺的な情報は割愛されがち。

しかし、その「周辺的」な情報に基づいた全体像こそ、事例研究では重要である。全体像が現地語以外では手に入りにくいのは、この分野の一つの問題だと思う。よく考えれば、「外国語としての英語(EFL)」の教育政策は、定義上、非英語圏が本場のはずだが、非英語圏の研究者の多くは英米志向で、国際誌に載った英語で書かれたEFL政策の論文をありがたがる(日本の研究者もそう)という捻れが問題をややこしくしていると思う。