最初に結論
「グローバル化」は英語教育研究で頻繁に使われているキャッチフレーズだが、「呪文」化しており、論者は誰もグローバリゼーションの先行研究を参照していない。
この手の話は、英語教育研究の論文をある程度読んだことがある人なら誰でも知っている事実ですが、その傍証を示すのが以下です。
こういう「テクストをきちんと読めば誰もがわかることをあえて数量的に示す」というデータの使い方は、仮説検証ではなく、プレゼンテクニック and/or 読者の認知負担の節約です。
手続き
全国英語教育学会第40回大会記念特別号『英語教育学の今-理論と実践の統合-』 をキーワード検索しました。
余談ですが、この本、日本の英語教育学を体系的に論じている概説書ですが、無料でダウンロードできます。すばらしい。
結果
結果、「グローバル」は46件、「グローバリゼーション」は2件ヒットしました。なお、「グローバル」は、一部、「全体的な」の意味(局所的の対義語)で使われていますが、多くは「世界的な」の用法です。
以下、象徴的なものを抜粋。
いずれにしても,社会のグローバル化の進行とともに,英語でのオーラルコミュニケーションの機会がますます増えつつある今日,スピーキング・ストラテジーの研究と指導は社会的な要請にもなっている。(p. 81)
グローバル化が一層強まるなかにあって, アカデミックな面からも,またビジネス界においても, 個人の営みだけでなく, 国際的にも英語のライティングに対する要求は日増しに増大している。(p. 127)
グローバル化の進展とともに,日本人学習者は国際コミュニケーションのツ ールとして英語を学習し,実際に使えるようになる必要性が高まってきた。(p.136)
グローバル人材育成の方針が強力に推進される中,英語教育において,テストと 評価の重要性は一層増してきている。(p.207)
しかし,これからのグローバル化社会においてこれらの能力[=異文化理解力・自律性]を養成は重要である。(p.273)
近年のグローバル人材育成の世界的趨勢も反映して,学習のキーコンセプトとして生 涯学習,主体的で自律的な学習,自己の判断力や思考力を基礎とした大枠での 自己形成,アイデンティティ形成が挙げられると思われる。(p.324)
グローバル化した世界 で生き抜く人材を育成するためには,人権尊重を中心として,多様性・相互依 存性の認識,他文化への寛容な態度,地球的課題の解決に向けての社会参加と 協力,情報化社会でのコミュニケーション能力の習得を目指すとした。(p.361)
「英語教育における国際理解教育はどのような形で具現化されるべきか」,こ の問いについての答えを出すためには,英語教育を「グローバル社会で通用す る人材の育成機能」という視点から考察する必要があるのではないだろうか。(p. 364)
国際理解教育を 英語教育の中で行う意義は,第一義的には外国語である英語を駆使してグロー バルに活躍する人材の育成をすることに変わりはないが (p.365)
グローバル関係の文献
一方、引用文献のうち「グローバル/グローバリゼーション」をタイトルに含むものは、以下の4点しかありませんでした。いずれも、グローバル化論の基礎文献ではありません。
- 文部科学省(2013).「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」Retrieved from http (以下略)
- 日本国際理解教育学会 (2010). 『グローバル時代の国際理解教育~実践と理論をつな ぐ~』明石書店
- 大津和子 (1997). 『グローバルな総合学習の教材開発』明治図書出版
- 鳥飼玖美子(2013).「グローバリゼーションのなかの英語教育―国際共通語としての 英語をどう考えるか」 広田照幸・吉田文・小林傳司・上山隆大・濱中淳子(編) 『グローバリゼーション,社会変動と大学』139-166. 東京:岩波書店
結論
というわけで、「グローバル化」は英語教育研究で頻繁に使われているキャッチフレーズだが、「呪文」化しており、論者は誰もグローバリゼーションの先行研究を参照していない。(冒頭の繰り返し)
「グローバル化」は、無定義で呪文的に使うには、あまりにも扱いにくいアブナイ言葉なんで、もっと慎重に使ってほしいですね。「グローバル化」警察に取り締まられますよ。
ご参考: