独自の質問紙調査を設計している関係で,先月,いわば「新しい英語」観(要は,国際英語論とかGlobal Englishes とかネイティブ主義とか)に関する尺度にどういうものがあるのかサーベイしていました。網羅的というには程遠いですが,そのときのメモをシェアします。
いろんな尺度を見た限りでの感想ですが,多くの尺度で統計的なバリデーション(妥当性検証)はしっかりやっている一方で,アーギュメンテーション(論証=要するに,なぜこの項目や因子がXという構成概念を構成するのかを理詰めで説明すること)がわりと貧弱だなあという印象を受けました。
「先行研究の◯◯がこう言っていたから,これも構成概念に含める」みたいな論証が散見されました。その先行研究がほんとうにガッチガチの尺度開発研究なら自然な論証ですが,よく見ると,事例研究だったり,提言論文だったりと,証拠の質としてかなり異質なものが論拠になってました。その程度の論証でいいのであれば,「ぼくの先生がこう言っていたから」「うちのおかんがこう言っていたから」だって変わらない。
であれば,先行研究は参考情報程度にして,主観でかつ超理詰めで議論を展開してほしいなあと思いました。たとえば,「これを構成概念に含める。なぜなら,以下の理由で(私が)重要だと思うからだ。その理由は(以下数十行続く)」のように。理詰めの説明がないと,構成概念の全体像が見えず,ユーザーとしては困ってしまう。
以下,メモの仕方に関する注釈
- 箇条書きになっている項目は,論文からの引用。地の文はわたしのコメント。
- 原文はすべて英語。日本語の部分はDeepLをフル活用した和訳
「国際語としての英語」認識尺度
「国際英語認識尺度」 (EILPS) という尺度があって,それを使って国際比較(※)をする研究が結構あるらしい。
国際比較と言っても中身をよく見ると,「A国のα大学とB国のβ大学の学生を比較する」といった程度の意味の「国際比較」なので,けっこう腰砕けの感はある笑
開発:Nakamura, S. Lee, Ju Seong, Lee, Kilryoung. 2018 English as an International language perception scale : development, validation, and application 慶応大学紀要 https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN10032394-20181231-0189
韓台比較:Lee Ju Seong & Chen Hsieh. (2018). https://doi.org/10.1080/01434632.2018.1438448
インドネシア-日本比較:Tauchid, Saleh, Hartono, & Mujiyanto (2022)https://sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844022020734
中国の教職学生:Christou, Thomas, & McKinley (2022). https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/01434632.2022.2148681
4概念,14項目で構成される尺度なんだけど,社会状況について認識を問うているものと,自分の対応力について評価しているものと,英語使用への向き合い方に関する規範意識を問うているもので結構バラバラ感がある。きちんと開発したことは疑ってないけど,これ,よく統合的な尺度になったなあ。
英語の現状(CSE)
- (CSE1) 英語は今日、世界中の人々と効果的にコミュニケーションをとる国際語として使用されている。
- (CSE2) 英語を母語としない多くの国々が、現在、英語を公用語または作業言語として使用している。
- (CSE3) 英語は、今日の世界におけるビジネス、文化、教育の言語である。
英語の多様性(VE)
- (VE1) 香港英語、インド英語、シンガポール英語など、様々な英語のバリエーションが今日では受け入れられている。
- (VE2) 教師は、異なる英語アクセントを持つ人々によって録音された英語リスニング教材を使用できる。
- (VE3) インドネシア英語、台湾英語、日本語英語など、様々な英語のバリエーションが今日では受け入れられている。
- (VE4) 教師は、英語リスニング教材に非母語話者間(例:インドネシア語話者と日本語話者)の対話を含めることができる。
多言語・多文化コミュニケーション戦略(SMC)
- (SMC1) 異なる文化的背景を持つ人々との交流に応じて、会話スタイルを調整できる。
- (SMC2) 他の文化圏の人々に、自身の文化や習慣を英語で明確に説明できる。
- (SMC3) 母国とは異なる話し方や発音パターンを、オープンな姿勢で受け入れることができる。
- (SMC4) 対話する英語話者に応じて、適切な振る舞いができる。
英語話者のアイデンティティ(ESI)
- (ESI1) 英語教師は、私に「ネイティブ」のような話し方を強要すべきではない。
- (ESI2) 自分の英語を話すときに、そのアクセントを笑われても気にしない。
- (ESI3) 自分の英語が他者に理解されさえすれば、アメリカ英語やイギリス英語のように話す必要はない。
グローバル英語志向尺度
タイトル通りで,「グローバル英語 (Global Englishes)」をどれだけ志向するかをとらえた尺度。2因子で24項目。
まず第一に,Global Englishes 自体が応用言語学者の造語(i.e. 理論的構築物)なので,それに関連すると思われる諸現象を包括的にとらえるところが第一歩という感じだろうか。(そのわりに2因子しか立ってないので,この尺度自体は特定の構成要素を狙ったものという感じはする)
Funada, N., Montakantiwong, A., Briggs Baffoe-Djan, J. & Rose, H. 2020 https://www.researchgate.net/publication/343135772_Global_Englishes_Orientation_Questionnaire_GEO-Q
「英語普及への態度」尺度
英語が世界に普及/拡大することに対する態度をとらえた尺度。5因子23項目
Takahashi, C., & Im, S. (2023). Attitudes toward the spread of English and language learning motivation: A graded response model analysis. International Journal of Applied Linguistics, 33, 190?206. https://doi.org/10.1111/ijal.12457
このIJALの論文,尺度開発なのに,実際の項目が載っていない。出版社のミスで,編集中に Appendix から抜けてしまったんだろうか(実際,私もこれをやられたことがある笑)。
なお,こちらのハワイ大学の同名の論文には,末尾にAppendixがついているので以下はそのコピペ。https://hawaii.edu/sls/wp-content/uploads/Takahashi-Im-2021.pdf 1
英語の普及に対する肯定的な感情
- F2英語が世界共通語であることは便利だ。
- 22英語が世界中で使われているのは良いことだ
- F6英語が公用語になれば良い
英語普及の実用的な側面
- P30 グローバル化の時代であっても英語が使えないことで特に不利に感じることはない。(逆コード)
- P17経済的に不利にならないよう、グローバル英語を学ぶべきだ。
- P20 グローバル化の時代であるため、英語は将来私にとって重要になる
- P12英語能力がなければ、我が国は経済的に取り残される。
- P3世界がグローバル化しているため、英語能力が必要だ。
- P26英語能力と経済力は関連しているため、英語は私にとって重要だ。
異文化コミュニケーションツールとしてのグローバル英語
- T29英語は異文化間コミュニケーションに便利である。
- T15英語は国際共通語として外国人と交流するツールである。
- T8国際共通語として、英語会話力が最も重要である。
LOTE学習の無意味さを感じる
- Q5. 母語以外の言語でコミュニケーションするには英語で十分である。
- Q7. 英語以外の外国語を学ぶ必要はない。
- Q11. 英語がグローバル言語となったため、第二外国語を学ぶのは無意味である。
- Q13. 多様性の観点から、英語以外の言語を学ぶべきである。(逆コード化)
- Q19. 外国語学習の目的の一つは、言語を通じて異なる思考様式を学ぶことである。(逆コード化)
- Q25. なぜ英語以外の言語を学ばなければならないのか理解できない。
- Q27. 英語以外の外国語能力を持つことは重要である。(逆コード化)
意図的な英語学習努力
- Q4. 私は英語の勉強に一生懸命取り組んでいる。
- Q9. 私は英語の勉強に多くの時間を費やしている。
- Q16. 私は英語の勉強に多くの努力を注いでいる。
- Q23. 私は常に自分の英語学習活動について考えている。
- Q28. 最近の私にとって、英語の勉強は非常に重要である.
Positive feelings toward the spread of English
- Q2. It is convenient that we have English as a global language.
- Q6. It will be good if English becomes an official language.
- Q10. English is too wide spread in the world. (reverse coded)
- Q14. The society will be homogenized if English is pervasive as a global language. (reverse coded)
- Q18. English has become advantageous compared to other languages.
- Q22. It is good that English is used all over the world.
Pragmatic aspects of the spread of English
- Q3. I need to have competence in English because the world is globalized.
- Q12. Without English competence, our country will be economically left behind.
- Q17. I should study global English so as not to be economically disadvantaged.
- Q20. English will be important in the future for me because we are in the era of globalization.
- Q26. English is important to me because English competence and economic power are related.
- Q30. Even in the era of globalization, I do not feel particularly disadvantaged for not being able to use English. (reverse coded)
Global Englishes as an intercultural communication tool
- Q1. I can communicate with people around the world by using global English.
- Q8. When it comes to a global language, English conversation skills are the most important.
- Q15. English is a tool to communicate with foreigners as a global language.
- Q21. English is useful for understanding people with different cultural backgrounds.
- Q24. I have no awareness of English as a communication tool. (reverse coded)
- Q29. English is convenient for intercultural communication.
Feeling meaningless in studying a LOTE
- Q5. English is enough for communicating in languages other than my first language.
- Q7. It is unnecessary to study foreign languages other than English.
- Q11. Because English has become a global language, it is meaningless to study a second foreign language.
- Q13. I should study a language other than English from the standpoint of diversity. (reverse coded)
- Q19. One of the purposes of learning foreign languages is to learn different ways of thinking through language. (reverse coded)
- Q25. I do not understand why I have to study a language other than English.
- Q27. It is important to have competence in a foreign language other than English. (reverse coded)
Intended English learning effort
- Q4. I work hard at studying English.
- Q9. I spend a lot of time studying English.
- Q16. I put a lot of effort in studying English.
- Q23. I constantly think about my English learning activities.
- Q28. Studying English is very important to me these days.
「ネイティブスピーカー・モデル」尺度
ネイティブスピーカーを英語学習・英語使用の標準(モデル)とすることを肯定する態度をとらえた尺度。
Harris, J. (2023). The native speaker model and language learners: developing a measurement instrument. Asian Englishes, 26(1), 106?123. https://doi.org/10.1080/13488678.2022.2158264
日本の文脈で開発。
人種をめぐる態度が外されているのが印象的。私の半径5メートルでは「ネイティブスピーカー主義から人種の話を抜きにして論じるなんてナンセンス」2という意識が基本だし,常識的に考えても人種主義がなければこれだけ英語ネイティブスピーカー主義は蔓延しなかったわけなので,意図的に抜いているならその狙いが気になりますね。
ところで,この尺度に限らず「テレビで日本人(or自国民)が英語を話すのを見ると誇らしい」みたいな「誇り」系項目を使う研究者が結構いる。これってうまく分離できるのかなあ(実証的にはうまく行ってるみたいだが)。思うに,英語に熱い思いありすぎで「日本人英語恥ずかしい」と思う人は「Disagree」と言う一方で,「熱い思い」が皆無の人も「そんなんどうでもええわ」というノリで「Disagree」と言うんでは?
第一因子:ローカライズされた英語に対する態度
- 1 外国人との会話では日本語訛りの英語を話しても問題ない
- 2 日本語訛りの英語は外国人にも十分に理解可能である
- 6 国際的なコミュニケーションにおいて、理解可能であれば日本の英語は受け入れられるべきである
- 10 完璧な英語コミュニケーションにはネイティブのような発音は必要ない
- 11 日本英語は完全に受け入れられる英語の形態である
第ニ因子:他の非ネイティブ話者に対する態度
- 8 日本人英語教師から英語コミュニケーションについて多く学べる
- 13 他の非ネイティブ英語話者との交流から英語について多く学べる
- 15 英語はもはやネイティブ話者の専有物ではなく、使用する全ての人々のもの
- 16 テレビや公の場で日本人が英語を話す姿を見ると誇らしい
第三因子:所有感
- 5 日本人は英語が流暢になっても、自分のアクセントを保つことが重要である
- 12 日本人は英語を話すとき、日本人のアイデンティティを保つことが重要である
- 18 他の非ネイティブスピーカーはネイティブのアクセントを真似る必要はなく、母語のアクセントで話すべきである
Factor 1: attitudes to localized English
- 1 It is okay to speak English with a Japanese accent when talking to non-Japanese people
- 2 Japanese-accented English is adequately intelligible to non-Japanese people
- 6 In international communication, the Japanese variety of English should be accepted as long as it is understandable
- 10 It is not necessary to have an accent like a native speaker to communicate perfectly in English
- 11 Japanese English is a perfectly acceptable form of English
Factor 2: attitudes to other non-native speakers
- 8 I can learn a lot about communicating in English from Japanese teachers of English
- 13 I can learn a lot about English from communicating with other non-native speakers of English
- 15 English does not belong to native speakers anymore, but instead to anyone who uses it
- 16 I am proud when I see Japanese people speaking English on TV or in public
Factor 3: feelings of ownership
- 5 It is important that Japanese people keep their own accent even when they become proficient in English
- 12 It is important for Japanese people to keep their Japanese identity when speaking English
- 18 Other non-native speakers of English do not need to imitate the native accent and should speak with the accent of their first language
「ネイティブ vs. 非ネイティブ」英語使用者規範尺度
5因子40項目。
因子はそれぞれ,言語的実利主義、コミュニケーション重視、民族相対性、言語維持、言語的威信 ( linguistic instrumentalism, communicativity, ethnorelativity, language maintenance, and linguistic prestige) 。
項目詳細は略。妥当性はともかく,40項目もあると実用的にはけっこう厳しいんじゃないかな・・・と,完全にユーザー目線の私は思ってしまう笑
- Khatib, M. and Rahimi, A. (2015). Attitudes towards English Language Norms in the Expanding Circle: Development and Validation of a new Model and Questionnaire. Teaching English as a Second Language Quarterly, 34(1), 51-81. doi: 10.22099/jtls.2015.3234
(尺度開発というわけではないが)「ネイティブスピーカー主義」の測定
- Adalta, F. A., & Arsyad, S. (2023). Native-Speakerism Ideology Among EFL Students in English Language Learning and Teaching: A Survey Study. Journal of English for Specific Purposes in Indonesia, 2(2), 108?114. https://doi.org/10.33369/espindonesia.v2i2.28051
ネイティブスピーカー主義の測定項目,おもしろい。

この論文は実は,妥当性・信頼性検証をとくに何もしてないでただ思いつきで並べただけっぽいんだけど,直感的にはいい線行ってると思う。まさにこういうことだよね。
ただし・・・
11 There are only 7 countries where English is the official language: Ireland, the UK, the US, Canada, Australia, New Zealand, and South Africa.
これ,クイズでしょ!これは,Strongly agree 4 - 3 - 2 - 1 Strongly disagree では答えられないよね。