この夏、「こいつはよかったなあ」と思ったものを書くだけの記事。
『最強の社会調査入門』
これは大変な良書だった。広義の「フィールド」との向き合い方・フィールドへの入り方の入門書という感じ。質的データの分析法に関する話が思い切って(?)省略されている点も好感が持てる。フィールドワーク・質的研究の場合、入門者に真に必要なのは、データ分析法に関する知識ではないと思うので。
まあもちろん、量的研究だと事情が違うんだけどね。データ分析法に関する知識が、調査の質を規定するので。分析法に関する知識がないとよい設問は作れない。
…とツイッター上で印象批評を繰り広げていたところ、編者のひとりからその通りといった感じのことを言われ、ホッとした。
@tera_sawa コメントありがとうございます。制作意図はまさにそんなかんじでした。そういうかんじで初学者の方にも読んでもらえるとうれしいですね
『先進国・韓国の憂鬱』
経済政策(とくに通商政策)と福祉政策という、従来は別々に論じられることが多かった2つの軸をセットに論じることで、韓国の過去約20年間の政治過程を説得的に描き出す。私が教育研究者として個人的に興味を持ったのが、以上の議論は韓国の教育政策にどう関係してきたかという点。「経済政策×教育政策」というパッケージとして読み解くこともできるのか、できる(or できない)とすればそれはなぜか、という点。
もちろん比較政治学の書であり、政治理論・韓国社会研究・歴史研究などに総合的に立脚した分析だが、計量分析としても学ぶところが多い。マクロ統計(官公庁等の集計済み統計)の分析とミクロ統計(個票)の分析が洗練された形で接合されている。「統計ありきの分析」にありがちな強引さがなく、きれいに「接合」されているのは、著者の豊富な「ドメイン知識」(政治学および対象に関する知識)ゆえ、という点で「お手本」になる点が多い。
応用言語学では官庁統計のようなマクロ統計を使った分析は難しい面もあるので、直接的に学べない場合もあるかもしれないが(とはいえ「個票分析=計量分析」というのを自明視すべきではないが)、その接続の仕方というのは触れておいて損はないだろう。