読んだ。
English Language Education Across Greater China (Bilingual Education & Bilingualism)
- 作者: Anwei Feng
- 発売日: 2011/09/15
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上海地域の生徒に対し、英語力テストと社会経済的状況の質問紙調査を行い、家庭環境が英語習得にどう影響しているかを検討した論文。計量分析。分析モデルは比較的単純で、2変数の関係の検討のみ。
つまり機会格差を統計的に分析するというもので、教育社会学の王道の調査・分析だが、不思議なことに、教育社会学の論文がほとんど引かれていない。引いている先行研究は言語教育研究ばかりのようだが、そのなかに教育社会学的な色彩の強いELT研究がちらほらあったので、むしろこの点のほうが興味深かった。
家庭環境と英語力
上海の様々な学校に通う9年生(義務教育の最終学年らしい)に、独自の英語力テストを行い、また、学習状況や家庭環境に関する質問紙も配布した(保護者用のものは生徒経由で配布・回収)。その調査結果を分析した結果わかったのは以下。
- 保護者の教育レベル
- 親学歴は、直線的に効く(つまり、親学歴の高・中・低によって、英語テストの点数も高・中・低にばらけた)
- 家族の社会的地位
- 社会的地位(中国独自の指標らしい)は、「中・高」と「低」の差が重要で、「社会的地位=中以上」だと英語テストの点に差は見られない
- 家族の経済レベル
- 世帯収入によるテスト成績の差もも似たようなかんじで、「経済レベル=中の上・高」と「中の下」「下」のあいだにはそれぞれ点差があるが、「中の上」「高」はほぼ同じ平均点である
保護者の学歴の方が、経済レベルより効くというのは、家庭の持つ学歴志向の「雰囲気」のほうが、教育投資の余裕よりも効果が高いという話であり、日本の結果とも同様で納得がいく。著者たちは若干納得がいってないように見えるが笑。
学校外学習との関係
前述の通り、著者たちはどうも経済レベル決定論が好みらしく、家庭の経済力と校外学習をクロスした分析をさらにいくつか行っている。
上海において、英語学習の環境は様々なものがあるらしく、どの教育サービスを受けるかどうかと、経済レベルは相関しているというオチ。そして、校外での学習施設が乏しい上海郊外の学校では、教育投資と英語力の相関は消えるという話もあり。まあ、それはそうだろう。
「英語は不要」なのに英語ブーム!?
示唆的だなあと思ったのは以下。207頁をざっくり意訳(厳密じゃないです!)。
上海の多くの人は、熱狂的な英語熱に困惑しているようだ。というのも、身近なところに英語は存在しないからである。[著者らによる]インタビューにたいしてある生徒(ふつうの都会の学校の生徒)曰く、「私は、中学校での英語学習の意味をちゃんとわかっていない、だって英語は、私の生活とかけはなれてるんだもの」。・・・別の生徒は「暮らしと関係ないものを学ぶなんて、僕はバカだと思うね」と答えている。こうした感情は、社会経済レベルが低い家庭の生徒に、よくみられる傾向のようだ。そういうこともあり、彼らのモチベーションは、概して低い。
「英語ブーム」と言っても一枚岩ではないことが(当然のことだけれど)わかる。
この点は、以前記事にした「英語の必要性に懐疑的な韓国の田舎」という構図を彷彿とさせる。