こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

CELES学会発表6月24日「小学校英語学習経験の中期的効果:エビデンスベーストアプローチに基いて

今月24日・25日に信州大学で行われる中部地区英語教育学会(CELES)で2本の報告をします。

  • 一つ目:1日目午後の自由研究(口頭発表)
  • 二つ目:2日目午後の課題別研究プロジェクト発表③ 英語教育における「エビデンス」:評価と活用


以下、1つめの発表について。

当日の発表スライド

https://www.slideshare.net/tterasawa/ss-77657179


以前から言っていますが、小学校英語推進派の行う「小学校英語の効果の研究」はほとんどが政策効果を検証するための最低限の要件を満たしていません。小学校英語推進派には政策研究関連のトレーニングを少しでも受けた人はほとんどいないので無理もないことですが。

私はいわゆる反対派ですが、政策研究のことはそれなりに知っていますので、推進派の人たちがやってきた先行研究よりはだいぶマシな研究デザインができます。

で、そのデザインに基いて、私が公開データ(研究者なら誰でもアクセスできるデータ)を分析したところ、(限定的ながら)有意な効果を明らかにしたという話です。小学校英語の推進派の学者は、推進しているにもかかわらずまだ誰もこのレベルのエビデンスを示していません。


といった感じの話をします。

発表要旨

タイトル

小学校英語学習経験の中期的効果:エビデンスベーストアプローチに基いて

目的

小学校英語の中期的効果をエビデンスベーストアプローチの枠組みで実証的に検証する。具体的には、公立小学校における英語学習経験が、中学生の a. 英語スキル、b. 異文化理解に対する態度、c. 英語学習に対する肯定的態度に効果があったか検討する。

先行研究

小学校英語の効果研究は数多く行われてきたが一般的に次のような問題がある。

  • I. すべての研究で、サンプルに代表性がない
  • II. ほぼすべての研究で、共変量が統制されていない
  • III. 多くの研究で、英語スキル以外の態度面(例えば、上記の b および c)に及ぼす効果が検討されていない
  • IV. 多くの研究で中期的効果(中学-高校程度まで持続する効果)を検証していない
  • IV'.すべての研究で長期的効果を検証していない。

以上の問題はいずれも、エビデンスの質を低め、政策評価の妥当性を損なう要因である。本研究では、上記の I-IV をクリアした実証分析を提示する(ただし、IV' はクリアできていない)。

データ

ベネッセ教育総合研究所による「第1回 中学校英語に関する基本調査・生徒調査」(2009年1-2月実施)。全国の中学2年生から約3000人を抽出した調査。

分析方法

以下の分析モデルに基づく、共分散構造分析を行った(なお、以下の変数はすべて自己報告設問)。

  • 原因変数:小学校での英語学習経験、時間数
  • 結果変数:英語(学)力、異文化理解の態度、英語学習への肯定的態度
  • 統制変数:家庭階層、居住都市、ジェンダー

分析結果

  • (1) 総経験時間は、a-c いずれにも有意な効果がない
  • (2) 学習経験の有無は、有意な、しかしごく微弱な効果がある

示唆

以上の結果を踏まえた示唆は以下の通り。

  • (1') 英語学習時間を追加的に増やすこと(例、早期化)に政策的意義は小さい
  • (2') 中2時点でごく微弱な効果しか見られないため、長期的に見たら早期開始のアドバンテージは消失する可能性が高い