こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

『小学校英語のジレンマ』の内容のうち、どこが新しいのか?

拙著『小学校英語のジレンマ』が発売されました。

小学校英語のジレンマ (岩波新書 新赤版 1826)

小学校英語のジレンマ (岩波新書 新赤版 1826)

先日の記事でも触れたとおり、ページ数の制約により「あとがき」が設けられず、私が研究者としてどのような姿勢で執筆したのかといった話は書けませんでした。

新書ということで、「小学校英語の専門家にとって周知の内容を、一般の人にわかりやすく伝えた本」と思う人もいそうですが、実際はそうではありません。 新規な知見を結構いろんなところにぶちこんでいます。 その意味でまだ評価が定まっていない内容を論じているとも言えます (とはいえ、筆者はできるかぎり「穏当」な解釈のみで全体を構成したつもりですが)。

英語教育学者の一部には、「読んだけど、俺はこんなことすでに知ってた」と虚勢を張って、「批判できちゃう俺すごい」と半径数メートルに有能アピールをして、初学者を無駄にまどわす困った人や、周知の事実と実証済みの事実と未実証の内容と未知の内容がきちんと峻別できていない残念な人がいるので、 本記事では、本書のどこが新出事項なのかリストアップすることで、アカデミア寄りの読者の便宜を図りたいと思います (逆に言えば、以下にリストアップされていないパートは、専門家にとっては周知の事実の部分が多いということになるでしょう)。

新規な知見である(と私が考える)部分

以下、「本書が初めてである」のような初出に関する断言調の文は、つねに、「私の文献探索が妥当ならば、先行研究には見当たらず、本書が初めてである」という意味です。 もちろん、それなりに先行研究サーベイを網羅的に行ったつもりですが、万が一抜け落ちている場合は是非ご教示ください。


第1章 戦前~1980年代

2節 臨教審

臨教審における審議過程分析。 実はこの端緒は、松岡 (2017 - 学会発表、本文参照) です。 ただ、松岡の先駆的な研究にアクセスできる人は限られていると思うので、僭越ながらこちらにリストしました。

当時の英語教育関係者にとっても1986年臨教審答申は大きなインパクトを持っていましたが、細かな検討をしている研究は皆無。もっとも、議事録が公開されたのはしばらく後のことなので、当時の人がリアルタイムに分析できなかったことは無理もないでしょう。

3節 児童英語教育学

児童英語教育学の萌芽期のあり方について根本的に批判した節。

私が書くまでもなく、批判的な考えを持っている人も多いはずですが、活字になったものは少ないと思います。そういえば、今年(2020年)はJASTEC発足から40年ですね。(ついでに言うとJES生誕20周年でもある)


第3章 

1節 90年代中教審の審議過程

2002年から総合学習において可能になった英語活動について、この決定に先立つ中教審の政策過程の分析は、本書が最初。

3節 教育特区

特区での小学校英語は肯定的な論者にせよ否定的な論者にせよ「先進的だー」という論調しかない気がします。 一方、本節は「別に真新しくないし、大した話ではない」というのが基本メッセージなので、その点は新しいはず。


第4章 

2-3節 外国語活動に至る政策過程

2000年代なかばの中教審の審議過程分析は、筆者のオリジナル。 初出は、2019年10月に出た拙論文


第5章

1-2節 英語教科化に至る政策過程

英語教科化に至る2010年代半ばまでの政策過程は、江利川春雄 (2018) 『日本の外国語教育政策史』 に詳しい。 その点で、拙著の新規な知見ではありませんが、小学校英語教育学者のみなさんの多くは江利川本を読んでいないはずなので、かれらにとっては新規な知見でしょう。

4節 世論・学校外学習

小学校英語に対する世論や学校外英語学習に関する分析は、筆者のオリジナル(初出は本文参照)。

そもそもこの領域が、筆者の得意分野です (前著前々著の主題でもあります)。

なお、小学校英語教育学者やジャーナリストの書いたものの中に、「世論の分析」と称するものがしばしばあるが、データの扱いが雑なものが多い(デタラメに集められたアンケートをとりあげたり、とか)。 それらを除外したうえでの「本書が最初」という意味。


第6章

1節 30年の政策過程の歴史的作用

本書が最初。書き下ろし。

2節 学習指導要領(外国語)批判

筆者のオリジナル。初出はこちら


第7章 小学校英語の効果(+エビデンスベーストの話)

章全体が筆者のオリジナル。初出は本文参照。


第8章 「グローバル化」という論拠はどれだけ有効か

『日本人と英語の社会学』という5年前の拙著をベースにしている章なので、まったくの新規の知見というわけではありませんが、小学校英語学界では「グローバル化」という語がほとんど疑われずに「呪文」として流通しているので、本章のインパクトはそこそこあると思います。

なお、本章は、こちらの記事に加筆修正したもの。


第9章 教員をめぐる制度的・財政的問題

本書が最初。書き下ろし。 そもそも小学校英語教育学には、奇妙なことに「教義の教育学」的な研究(教育行財政学など)がほとんどありません。


おわりに

本書が最初。書き下ろし。