昨日、英語教育・応用言語学系の研究会で発表させてもらった。
歴史社会学の具体例を話す文脈で、「小熊英二の『単一民族神話の起源』という本がありますが、ご存じですか?」と聞いてみた(あえて「ご存知ですよね」とは聞かなかった)。
聴衆の大半が無反応だったことは驚いた。
その後の懇親会で、何人かの方とこの話をしたので、知っている人は実際には皆無ではなかったわけだが、発表時のリアクションはまさに「皆無」といった雰囲気なのでびっくりした。
意識の高い英語教育の専門家が、シンポジウムや講演会で「日本=単一民族」的なことを発言している場面に出くわすことがたまにあるが、この本の書名を知っているだけでも(たとえ読んでなくとも)だいぶマシな知的状況になるのになあと思った。
念の為にいうと、「アイヌがいるから、単一民族じゃない。ほぼ単一民族だよ」とか、そういう話ではない。戦前は誰がどう見ても多民族国家だった日本(大日本帝国)が、敗戦後、戦前の名残である在日コリアンや沖縄をはじめとした「異民族」の存在をどんどん忘却していった、という話である。
英語教育研究者・応用言語学者にも各人でそれぞれ興味や作法が違うのだから別に「読んでないなんて恥ずかしい」などと言う気はさらさらない。土俵が違うからだ。ただ、「日本人」論をめぐる土俵に上がろうとするなら話は別である。書名すら知らない「文化圏」で生きてきた外国語教員が、何かに目覚めてしまったのか、突如「日本人とは」などとスピーチをぶったりするのは聞くに耐えない。
- 作者: 小熊英二
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 1995/07/01
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