こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

政策評価志向とメカニズム志向

今月、中部地区英語教育学会で発表する内容のネタ帳。

介入(X)と効果(Y)の関係をめぐる2つの視点

ある教育プログラムを導入するとき、つまり「介入」をXとし、その最終的な効果をYとするとき、X→Yといった因果関係が想定できる。このモデルは、教育研究者の多くが(自覚的にせよ暗黙的にせよ)設定しているものである。



これには、2つの対照的な視点があり、ひとつは、「メカニズムの解明」志向で、もうひとつが政策評価志向である。

カニズム志向

カニズム志向は、次のようなイメージで示すことができる。
教育現象は、以下のとおり、非常に多くの要因が介在することは周知のとおりである。
介入(X)と効果(Y)の間に介在する多様な要因を、ここではZで表現した



これらを逐一つぶしていきながら、その積み重ねで、最終的な効果を推論しようとするものである。
以下の図の赤い矢印が「解明された部分」を意味している。これらの矢印(パス)をたどっていき、最終的な効果を推論するという考え方である。

政策評価志向

一方、政策評価志向はこれと真逆の推論方法をとる。
下図のとおり、個々のメカニズムは、ブラックボックスに入れてしまって、不問に付してしまう。
そのうえで、観察可能な介入(X)と、おなじく観察可能な効果(Y)を比較しよう、という発想である。

強みと弱み

もちろん、両者には強みと弱みがあり、どちらかが一方的に優れているわけではない。
両者の長所・短所は、ちょうどそれぞれの長所・短所の裏返しである。


政策評価志向の強みは、XとYの中間に介在している多数のZを不問に付して、全体的な判断ができることである。とくに、これは未知のメカニズムがもし存在していた場合、大きな利点となる。逆に、個々のメカニズムに関する知見を積み重ねていくタイプの推論方法は、もし未知の要因・因果が合った場合、結果に大きなバイアスが予想される。


一方、政策評価志向の弱点は、本質的に回顧的な判断しかできない、という点である。
前述ののとおり、観察可能な介入(X)と観察可能な効果(Y)を用いて判断するということは、最終的な効果が既に観察可能になっていることを意味する。つまり、すでに効果が定まった状態ということである。したがって、これから行う介入や現在進行中の介入の効果を評価することは、論理的にできない。