こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

学会時のマイクロ・ミスインフォーミングに困っているという話

マイクロ・ミスインフォーミング (micro-misinforming) というのは,私がいま造った言葉。マイクロアグレッション (micro-aggression) を意識したもの。

意味は,学会発表等で,発表者がつかみとして「ちょっといい話」をするんだけど,それが明らかに間違っているという現象。

それだけなら,訂正してもらえばいい話という気がするかもしれないけれど,実はけっこうややこしい。発表の本題じゃない小話なので,質疑応答でそこをわざわざ指摘するのは,憚られるというジレンマである。

差別的発言とか名誉毀損であれば,小話だろうがなんだろうが,ガンガン批判すればいい。でも,これが,ちょっとした間違い(ちょっとした,しかし,明らかな間違い)だと,そこまでの思い切りもつかない。

具体的な事例でいうと,私が困っているのは,TOEFLやEF英語能力指数の国別ランキングを話のつかみに引いて,◯◯国のリアルを語りだす先生。明らかにデータの誤用なんだけど,その先生の発表の本旨ではないので,指摘しづらい。誰も指摘しないので,院生等が「良いつかみ!私も使おう!」と真似して,さらに蔓延する。

もし,発表内容が「TOEFLランキングから見る世界の英語教育の現状」みたいなのであれば,私も小躍りしながら質疑応答で手を上げる(笑)。でも,TOEFLランキングを引用する先生って,ほぼ例外なく「小ネタ」として使うんだよね。小ネタとして消費するんじゃなくて,もっと真剣に向き合ってほしい(笑)

色々なマイクロミスインフォーミング

上記のTOEFLランキングのような事例は,おそらくたくさんある――たとえば,ハイコンテクストコミュニケーション1とか,マズローの欲求ピラミッドとか,メラビアンの法則とか。

忸怩たる思いの人も多そうだ。

なお,重要な点は,ただ単に「間違っている情報の提供」ということじゃなくて,

  • 小ネタとして提供されるため,間違いの指摘がしにくい
  • その割りに,ある種の人々の琴線に触れる小ネタである
  • その結果,すぐ真似する人が現れる

という点。

「英語力国別ランキングを小ネタにするな」という趣旨の過去記事


  1. こちらの記事を参照。→