「あなたの子どもが通う公立小学校で、英語で授業を行う教育プログラムが用意されるとすれば・・・」と仮定し、(1) 通わせたいか、(2) その場合、月謝はいくらまでが妥当か? を尋ね、その規定要因を分析したもの。「もし〜ならば」というように、一種の政策的な実験状況を設定しており、こういう手法を仮想市場法(Contingent Valuation Method)と呼ぶらしい。
著者は、いずれも経済学・教育経済学の専門家なので、早期英語はあくまで「一事例」扱いだが、英語教育政策に対する意識構造に興味がある英語教育研究者にとってもおもしろいと思う。
結果は、上のリンクの本文(および要旨)を読めばすぐわかるので省略。
「学歴」が影響していない!?
ただ、一個だけ興味深いと思ったのが、早期英語プログラムを通わせたいか否かに学歴が有意な効果を持っていない点。別の独立変数(統制変数)に吸収されたというわけでもなく、そもそも2変数間の関係でも、10%水準ですら有意でなかったらしい(→表2)。
ここでの「学歴」とは、「あの人は東大を出た、あそこの子どもは早慶云々」という話ではなくて(こういうのは社会科学では一般的に「学校歴」「大学歴」と言って区別すると思う)、「中卒で就職した/高校を出た/大学まで行った/大学院にも...」という学校段階の最終学歴の話。こうした学歴の差は、教育意識だけでなく、政治意識や社会意識に大きなく影響していることが広く知られているので、この早期英語プログラムの場合、効果がないということはかなり意外だった。
この点を著者はとくに解釈していないようだが、自分がざっと思いつくものとしてはふたつ
- 早期英語意識は学歴フリー
- 英語は早くからという熱意は、高学歴のひともそうでないひとも関係なく一様に支持する、言わば「国民的現象」という説。
- 学歴の効果はあるが相殺されている
- 学歴が高く教育意識の高い親は、一方で「英語が大事!早くから!」と考える傾向があるが、他方で、「国語が大事!英語は後!」とも考える傾向もある。両極端の反応をする人が混在するので、見かけ上の効果は現れていない、という説。
個人的には、後者のほうがもっともらしいと思う。