読んだ。おもしろい論文だった*1。
General Social Survey (通称 GSS) の2000年版を使って、アメリカ合衆国国民の英語・外国語に関する政策への態度の規定要因を分析した論文。GSSは、僕もよくお世話になっている社会調査プロジェクトJGSS(Japanese General Sociral Surveys)の元祖にあたる(↓以下のウェブサイト参照)。
GSS General Social Survey | NORC
外国語政策に対する意識、2つのパターン
著者らは様々の外国語政策に対する回答結果を分析しているが、大別して2つの軸が取り出せるという。それは、
- 英語以外の言語話者の権利を制限するような政策への態度
- たとえば、移民のバイリンガル教育に対する態度や、選挙を英語以外の外国語で行うことを認めるか否か、等。
- 外国語教育への態度
- 外国語教育の充実に対する態度、外国語学習の意義に対する態度など
おおざっぱに言って、前者は、狭い意味での言語政策・言語計画 (language policy and planning)にあたる。一方、後者は、言語教育政策 (language-in-education policy) に含まれるものだろう。両者は、しばしば(言語政策の専門家の議論のなかでさえ)混同されるが、各々を支持しているグループはけっこう違う。つまり、意識の現れ方という点で言えば「別物」である。これがこの論文のたいへん興味深い点のひとつである。
規定要因
各政策に対する意識の規定要因は次のようなもの(その他の要因の影響を統制したうえでの結果なのでご注意)。
結果の表がけっこう見づらかったので、余計なお世話だけれど、わかりやすく提示した。以下、有意だった項目のみ、示している。
「外国語教育を充実させるべきだ」と考える傾向が強い人 | 「英語以外の言語話者の権利も保護すべきだ」と考える傾向が強い人 | |
---|---|---|
ジェンダー | 女性 | 女性 |
年齢 | - | 若年者 |
人種 | 黒人以外の有色人種 | 黒人以外の有色人種 |
教育レベル | 高学歴者 | 高学歴者 |
収入レベル | - | - |
居住地(都市化の度合別) | 都市居住者 | - |
居住地(北東部/中西部/南部/西部の別) | - | - |
外国語能力 | 外国語ができる人 | 外国語ができる人 |
宗教 | - | - |
政治意識 | - | リベラル |
支持政党 | - | 民主党支持者 |
※表中の "-"は関連なし
「(英語以外の)外国語の学習はべつに重要じゃない」と考えるような人と、「USAでは英語以外の言語にまで便宜を図る必要はない」と考えるような人は、同じグループに属すると考えられていることが多いと思う。とくに年配者で保守的で、共和党支持者で、、、といった人々に「アンチ外国語」のイメージがあるが、上の結果はそういう予断を裏切っている。
つまり、たしかに保守的な態度は、「英語以外の言語にまで便宜を図る必要ない」という意識と相関しているが、外国語教育の充実化とは相関していない。
そういえば、白井恭弘氏の新刊『ことばの力学』のなかでも、政治的態度とモノリンガル主義/多言語主義の日米の差違が言及されている。
[日本の状況が]アメリカ[合衆国]と大きく異なるのは、保守勢力ではなく、いわゆる進歩的と言われる勢力がモノリンガル主義を主張していることです。たとえば、日本の文部科学省に「使える英語」の習得を要求するのは、保守的と言われる政財界です。小学校での英語導入に反対したのは、多くの場合、進歩的と言われる知識人・英語教育関係者です。このギャップはどこから来るのでしょうか。(p. 38)
白井氏は、日米における英語の位置づけの違いからこの「ギャップ」を説明している ―つまり、米国における英語=「国語」、日本における英語=「支配者」の言語― わけだが、言語保障政策と外国語教育政策とでは、意識の現れ方が異なるという補助線を入れるならば、これは日米で共通なもので、じっさいのところ大した「ギャップ」ではない、ということにもならないだろうか。
じじつ、日本の「進歩派」と呼べる人々のなかには「日本人なら日本語を!」「英語よりも日本語が大事!」という(ナショナリズム全開の)主張をする人々が数多く存在するが、「外国人も日本語を学んで早く同化したほうがいい」などという人はごくわずかではないだろうか?
- 作者: 白井恭弘
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*1:ちょっと誤植が多すぎて心配になったが(笑)