こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

楽天三木谷社長、脳科学に期待を寄せる

メモ。

文部科学省の「英語教育の在り方に関する有識者会議(第一回)」において、楽天社長の三木谷浩史氏が「英語教育と脳科学」について発言している。要は、英語教育の開始時期について脳科学をはじめとした科学的な知見が必要だという趣旨。


"英語教育の在り方に関する有識者会議(第1回) 議事録 平成26年2月26日(水曜日)10時00分〜12時00分"

思春期の前の英語で言うと purity [ママ] の前の英語教育なり外国語教育の有効性なり実用性ということに関して、ある程度脳科学的に、科学的に話をするべきではないかなと思っています。…やっぱり子供のときに習得していた方が、明らかにスムーズに英語で…議論ができるので、もし思春期より前に増やすということであれば、逆にもっとトータルな勉強時間のリソースを前倒しして小学校のところで一生懸命やって、あるいは高校とかは少し薄くするとか、そういうようなことも考えられるのではないかなと思っていますので、そのタイミングというのは、もう少し科学的に検証した方がよいのかなということが一つ。


ちなみに、この脳科学待望論は、この次の有識者会議(第二回)で、言語学者・認知科学者の大津由紀雄氏にほとんど論駁されてしまっている。
英語教育の在り方に関する有識者会議(第2回) 議事録:文部科学省


ただし、この議事録は少々長いので、手っ取り早く概要を知りたい場合は以下の文書のほうが良いだろう。脳科学が英語教育に示唆を与える可能性はまだごく限定的であることが簡潔に整理されている。

◯早期からの英語教育の有効性を脳科学的に検証すべきとの観点から、いわゆる「臨界期説」について論点を整理した。

  • 「臨界期仮説」は、本来、母語習得に関するものであり、第2言語習得環境(第2言語に接する機会が日常生活にとても多い環境)を対象とする研究にも広げられた。明確な臨界期の存在は未確認であるが、一般的に、学習年齢が高くなるほど、ネイティブ・スピーカー(母語話者)に近い言語習得が難しくなると解釈されている。
  • 一方、日本のように、日常的に外国語に接する機会が少ない環境での外国語学習は、第2言語習得環境と分けて考える必要がある。スペインでの研究によれば、8歳から英語学習を始めた子供は、11歳から始めた子供と比較すると、文法能力では追い抜くことはできないが、リスニングと発音では、統計的に有意な差が出ている。国内でも、小学生から英語を学習した者の方が、大学生になってもリスニングの力が高く、英語への肯定的な態度が高いという研究結果がある。リスニング力等や英語を使うことの自信に関して一定の相関関係が見られる。
  • 脳科学は、著しい進歩を遂げているが、今のところ、言語教育や外国語教育に関する政策や教授法に直接に示唆を与える研究成果はない。



個人的には、脳科学が進展しようがしまいが、あまり関係ないと思う。脳と実際の教育現場はあまりにも遠いからである。教育現場で成果の検証ができないような特殊事情がある場合ならまだ脳科学に頼る意義もわからないでもないが、実際に目の前に英語学習を経験している児童・幼児がいる以上、彼らの言語学習成果を慎重に検証すれば十分な話だと思う。