こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

アジア30カ国の英語格差を比較計量分析した論文が出ました(World Englishes 誌)

アジアバロメーターを使ってアジア30ヵ国の英語格差の程度とパタンを比較した論文が出版されました。興味がある方はメッセージくださればPDFをお送りします。


Terasawa, T. (2024). Relationship between English proficiency and socioeconomic status in Asia: Quantitative cross-national analysis. World Englishes, 1–24. https://doi.org/10.1111/weng.12705

ドラフトバージョンは、ResearchGateに置いてあります。こちらはDM不要で読めます。

基本的には記述的な分析が中心です。ただ,一点,論争になりそうな論点として,既存の批判的英語研究の英語格差 (English divide) 言説に対してささやかな異議申し立てをしています。韓国の英語教育研究が典型ですが,ここ20年の批判的英語研究では,英語格差(英語教育および英語力による社会格差の増幅)が,揺るぎない真理のように扱われています。しかしながら,多くの先行研究は,事実(格差があること)と言説(格差があると言われている/懸念されていること)の区別が結構あいまいなまま,議論されています。

本論文で私は,既存の英語格差言説に反し,韓国の格差の度合いは,比較的マイルドであることを明らかにしています。そのうえで,韓国の英語格差は,その実態以上に,言説のせいで増幅されている可能性を示唆しています(第7節参照)。

なお,この増幅効果は,格差研究・批判研究のもつ逆説だと思います。「格差があるぞ!」と多くの人が叫べば叫ぶほど,事実がどうであれ,格差があることが自明視されるからです。しかも,「格差があるぞ!」の根拠が,「誰々も言っている」「社会問題になっている」というエピソード的な証拠に基づくことが多い質的事例研究においては,より注意が必要なポイントでしょう。

記述的な分析に関しては,とりあええず,図だけ見ても要点はわかると思います。

英語力とジェンダー

英語力と教育レベル

英語力と職業カテゴリ(3水準)

英語力と居住都市規模

英語力と各社会階層変数の相関係数,箱ひげ図

相関係数をもとに30カ国を分類(階層的クラスタ分析)