こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

「英語を役立つと思っている人ってどんな人?」(拙稿の宣伝)

Terasawa, T. (2011) Japanese People’s Valuation of English Skills: Sociometric Analysis of JGSS-201. Osaka University of Commerce JGSS Research Center (Ed.). JGSS Monographs 11 (pp.47-57).〔大阪商業大学JGSS研究センター編『日本版総合的社会調査共同研究拠点 研究論文集 11』〕 (→ここからダウンロード可能です)


正確な「要旨」は、論文の冒頭に和文要旨があるので省略させて頂きますが、かいつまんで言うと、たとえば「一億総英語会話」化など*1と戯画的に描かれる「日本の英語熱」が、実際はそんなに大したこともないんじゃないの?という点をデータ(社会調査のアンケート)で検証したというものです。


分析の焦点は、英語を「自分の仕事 or 趣味にとって役立つ」と思うかどうか、つまり、「英語に対する価値付け」においています。結果、英語は「少しは役立つ」と回答人を含めても、「役立つ」と思っている人は「日本人」*2過半数もいないということがわかりました。これは、まあ、日本に暮らしている「普通」の人であれば、たいして驚かない結果だと思いますが、一応、実証したということで。ただ、英語教育関係者の知人のなかにはこの結果に驚いた人もいたようなので、英語に対する関わりの度合いによって、「日本人の英語熱」のイメージが違うのかもしれません。ここまでが論文の前半です。


そして、論文の後半の分析では、「役立ち」感が生ずるメカニズムは、ジェンダー差があるのではないかという可能性を示唆しています(ごく仮説レベルです)。《封建的・男尊女卑的な日本社会から解放してくれる英語》という「英語とジェンダー」を取り扱った日本社会研究の知見に基づくなら、十分ありえる可能性だと思います。が、ちょっとそこまで結論づけるほど明確な結果は出ていなかったので「可能性」レベルにとどめています。

*1:たとえばここ:http://book.asahi.com/review/TKY200801080198.html

*2:標本台帳に選挙人名簿を使っているので、選挙権を持っている人が「日本人」の定義です。