英語教育とかバイリンガル教育が産業化してきたせいか、教育産業から金をもらって「半分デマ」(逆に言うと半分くらいは科学的に正しい)を吹聴する学者が現れ始めているような気がする今日このごろ、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
単なる「真っ赤な嘘」ではなく、「半分デマ、半分正しい」というところが曲者です。科学的研究にまったく依拠していないわけではないけれど、重大な文脈を(意図的にかポンコツゆえにか)無視してしまっているため、ミスリーディングな結論になる点です。「科学」の言葉で煙に巻かれてしまと、一般の人も論者の言うことを信じるしかないのが、厄介な点です。
そんななかでも、いくつか汎用性の高いミスリーディングポイントが思い浮かぶので、対策と合わせてリストアップします。他にもあったら、ぜひご教示ください。で、もしリストが多数積み上がった暁にはシンポジウムでもやりましょう。
御用学者仕草その1 程度問題の無視
実際には微弱な効果しかなかったにもかかわらず、「効果があった」とだけ書くことで、程度問題を有耶無耶にする。
例文
対処法
直接対話できる機会があれば、効果の程度がどれくらいあったかストレートに聞きましょう。効果量 という,「程度」を意味するとてもよい専門用語があります。「なるほど✕✕に効果があったのはわかりましたが、その効果量はどれくらいでしたか?」みたいに使えます。とりあえず,「効果量」の数学的意味は知らなくてもOKです(ググればわかりやすい解説がたくさんヒットしますが)。
御用学者仕草その2 チェリーピッキング
自説(あるいは御用活動)に都合が悪い結果を出した研究を知っているのに、考慮しない。
原義は、熟したチェリーだけをつまむこと。転じて、自分に都合のいい事例だけを選んで、都合のわるいものは無視すること。この言葉は、御用学者警察を行う上で非常に重要かつ便利なのでぜひ覚えておきたいキーワードです。
例文
対処法
実は、簡便な対処法はありません。 なぜなら、先行研究をフェアにレビューすることは研究者でも難しいことだからです。実際、「お前のこの整理の仕方はフェアじゃない!」「いや、フェアだよ!」という論争がしばしば勃発しています。
ただ、直接相手に聞ける状況であれば、「逆の結果になった研究ってないんですか?」とストレートに聞くことはそれなりに有効でしょう。もし、最低限度の知的誠実性を持った人、つまり、「都合が悪い研究は隠しても、嘘はさすがに言わない」という程度の誠実さを持った人なら正直に答えてくれるでしょう。
御用学者仕草その3 文脈の無視・論理の飛躍
実験室や特定の文脈でしか効果が観測できておらず、現実的な効果については大いに疑義が提出されているにもかかわらず、現実的な効果の話を滑り込ませる。
例文
対処法
当該の説明について事前知識がなければ、大事な文脈を無視しているかどうか、また、論理に飛躍があるかどうかはわからないので、簡便な対処は難しいでしょう。
ただ、例文にもある脳の話は、御用英語教育あるあるなので、対策は立てやすいかもしれません。脳の何とかを根拠にして現実の効果(○○英語学習法の効果とか、バイリンガルに育てることの効能とか)を説明する話法は、多くの場合、未検証の因果関係に基づいた説明です。
「その結論は、どれくらい学界で定説なんですか?」あたりを聞くといいかもしれません(それでも、煙に巻かれそうな問い方ですが)。 あるいは、「その因果推論って、あなたの感想ですよね?」くらい言ってもよいかもしれませんね(確実に嫌われますが)。
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セミ専門書ですが、英語教育における御用学者仕草の問題性は、本書で理論的および具体的に批判されています。(御用学者という言葉は使ってませんが)