こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

英語教育政策の分析枠組みを考える - CELES2023発表要旨

CELES2023発表要旨を書いていたら、かなり字数オーバーしてしまったんですが、もったいないのでこちらにコピペして供養とします。

タイトル

英語教育政策の分析枠組みを考える(Work in Progress セッション)

要旨

私は、大学・大学院で英語教育政策に関する講義を行っているが、分野を体系的かつ網羅的に概観している教科書がないのが悩みである。そればかりか、そもそも先行研究には分析精度の高い枠組みはまだ存在しないように思われる。したがって、自分(たち)で枠組みを作る必要がある。本発表では、日本における「外国語としての英語」の教育政策(以下、EFL政策)を念頭において、どのような分析枠組みが可能か議論したい。

なお、EFL政策に関する研究は膨大にあり、とりわけ英語圏では言語政策研究の枠組みで数多くの蓄積がある(e.g. Kirkpatrick [2015] English Language Education Policy in Asia. Zein & Coady [2021] Early Language Learning Policy in the 21st Century.)。しかしながら、既存の言語政策の枠組みは、EFL政策とは、以下の点で相性が悪いと考えている。

第1に、言語政策は、必ずしも外国語だけが対象ではない(むしろ国家語や地域言語・少数言語が重要な関心事であることが多い)。また、教育と直接関係ないトピックを扱うことも多い(たとえば、いわゆる「コーパス計画」)。第2に、言語政策現象には、草の根的な取り組みが多いため、非政府アクター、ローカルな文脈、前線の人々のエージェンシーの分析の存在感が大きい。他方、EFL政策の主たるアリーナは学校教育であり、必然的に政府(中央政府・地方政府)の分析のシェアが相対的に大きくなるはずである。しかし、EFL政策の先行研究は、政府「内」の分析(狭義の権力の分析、教育行財政制度の分析)が手薄であると感じる。第3に、言語政策研究は、社会言語学(言語社会学)を学問的出自とすることもあり、教育ドメインの理論・知見が適切に統合されていない場合がある。たとえば、日本を事例にしたEFL研究では、英語圏の言語政策理論は盛んに引用される一方で、教育政策理論や日本の教育研究はあまり引用されず、ここには大きな社会言語学バイアスが垣間見られる。

以上の点について、Work in Progress という場のメリットを活かして、議論・情報交換できれば幸いである。