こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

奈良教附属小「代名詞の指導不足」という意味不明

一昨日,奈良教育大学附属小学校の「不適切」な教育課程が,フジサンケイ系のメディアで報道されました。

大半に「国歌」指導せず、道徳は全校集会で代替 国立奈良教育大付属小、法令違反教育常態化 - 産経ニュース


それを受けて,昨日,学校側が記者会見を行い,ウェブサイトに謝罪と報告書 (https://www.nara-edu.ac.jp/news/2024/01/pr0117.html)を掲載しました。

その是非はさておき,問題は英語に関してです。英語科・外国語活動についても「不適切さ」が指摘されていますが,この指摘の意味がわからなすぎて頭を抱えています。どういう意味なのか想像ができる方はいるでしょうか?

すでに報道では,「外国語では、代名詞など高学年で指導内容の,不足が確認された」などと報じられています。確かに奈良教が謝罪文と一緒にアップした報告書にも,代名詞(および過去形・動名詞)の指導が不足していたとあります。

報告書の当該箇所

この話は,謎だらけです。

第一に,代名詞を扱わずに英語の授業ができるのかというのがまずもって謎です。 My name is xxx. とか,I'm Ken. Nice to meet you. とか,Thank you very much. とか一切言わない授業が行われいたんでしょうか。

第二に,小学校の外国語科で,特定の文法事項について指導が不足した状態が何を指すのか皆目見当がつかないという謎です。当該の学習指導要領の記述は以下ですが,どこにも「代名詞をきっちりやりましょう」などとは書いてありません。

根拠としてあげられた学習指導要領の該当箇所

小学校英語の理念や実践に詳しい人にとっては常識ですが,むしろ文法事項を教え込むようなことは,小学校外国語科では「邪道」(絶対駄目というほどではないが少なくとも推奨はされていない)とされています。 ですから,代名詞の指導が「徹底」されているほうが学習指導要領の理念に反しているとも解釈できるわけです。

しかも,指導不足と指摘されているのは,代名詞にくわえて,過去形・動名詞だけです。この3点についての補修計画も発表されています。逆に言うと,その他の点については指導は不足していたということでしょうか。これも,気持ち悪い(笑)ほどの意味不明さです。

上記学習指導要領のスクショ画像の,上の方の (ウ) を見て下さい。

慣用表現のうち,excuse me, I see, I'm sorry, thank you , you're welcome などの活用頻度の高い基本的なもの

を扱うとしています。上の例にはおもいっきり代名詞が含まれていますが,どういう慣用表現を使うと,代名詞を回避できるんでしょうか。

個人的に邪推すると,同小学校のこれまでの教育実践全般にケチをつけたい人がいて,特定の教科だけでなく全教科で不適切指導が行われているというストーリーにしたいがために,英語に対しても強引な粗探しをしたということではないでしょうか。

しかし,残念なことに,その人には小学校英語に関する基本知識がなかったがために,「代名詞の指導が不足」などという支離滅裂な批判になってしまったということだと思いました。

アラ捜しをしたということではないでしょうか。

excuse me