こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

本が出ました - 酒井英樹他編『実践的英語科教育法』(分担執筆)

ブックチャプターを執筆した本が発売されました。

   

「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法

「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法

  

私が担当したのは第二章です。

 

2章 日本社会における英語:その歴史と必要性

1.英語使用の必要性
2.何のために英語を教えるか:英語教育史素描
 2.1. 明治初期:英語学習・英語教育の目的が自明だった時代
 2.2. 明治中頃~戦後初期:エリートのための英語
 2.3. 戦後:国民教育としての英語
3.英語と政治経済的力学
 3.1. 英語帝国主義
 3.2. 英語拡大の歴史
 3.3. 英語拡大の政治経済的力学
 3.4. 言語の商品化
4.ジェンダー差、象徴的機能、グローバル化
 4.1. 英語学習とジェンダー
 4.2. 日本社会における英語の象徴的機能
 4.3. グローバル化

  

「コンパニオンウェブサイト」もついてます。 「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法 - 株式会社大修館書店

上記の出版社URLにアクセスすると飛べます(ちなみに、このサイトのレジメ・パワポも僕が書きました)。まさにIT時代の教科書です。たぶん。

いただきもの:内田良編『調査報告 学校の部活動と働き方改革――教師の意識と実態から考える』岩波ブックレット

名古屋大学の内田良さんからご恵投いただきました。 3章では拙論文も引用いただき、ありがとうございます。

件の拙論文「小学校英語政策の問題点」(http://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-89476-880-2.htm …) は、出版以降しばらくたったものの、小学校英語の研究者は誰も引用・言及してくれません。一方で、働き改革を研究する教育学者・教育社会学者は引用してくれるという皮肉な事態ですね。

とまれ、勉強させていただきます。

調査報告 学校の部活動と働き方改革――教師の意識と実態から考える (岩波ブックレット)

調査報告 学校の部活動と働き方改革――教師の意識と実態から考える (岩波ブックレット)

原稿から削除した脚注たちの墓場――英語教育学者のキャリアパス。全数調査の問題点。小学校英語の効果研究

とある原稿(言語政策研究の方法論的な話)を書いていましたが、編集部の指令により脚注を削除せざるを得ないことに。気の毒なのでこちらで記事化することで,供養とします。

文脈として意味不明だと思いますがすみません。 興味があったらコメント欄などで聞いて下さい。

ですます体とだである体が混在しているのもご愛嬌。

教育学者と英語教育(政策)学者のキャリアパスの違い

教育政策研究者の典型的なキャリアパスはたとえば次のようなものです。

まず,大学院として,狭い意味での教育学系大学院――つまり教育哲学や教育史などを専攻する同期と肩を並べて学ぶ研究科――に入る。そこで教育政策のゼミに所属し,博士論文を提出して,博士号を取る。一部の人は,その後すぐ大学に就職できるが,多くの人はポスドクで教育政策の研究を続け,しばらく後に高等教育機関でのポストを得る(ただし,全員が就職できるわけではありませんが…)。

一方,従来の英語教育政策研究者の典型的なキャリアパスは次の通りです。

まず,英語英文科系あるいは英語教育系の大学院に入り,英語学・英文学・指導法・言語習得論などを学ぶ。その分野で博士号を取得するか,取得する前に大学等のポストを得る。その後,政策にも関心が芽生えたのか,英語教育政策の研究にも着手する。この結果,教育学や政策研究のトレーニングをスキップした英語教育政策研究者というものができあがります。

なお,念のため注記すると,この構図は従来の英語教育政策研究者の状況について述べたもので,今後あるいは若い世代では,次に述べる理由から,状況が異なる可能性が高いと考えます。

第一に,世代が下るにつれて,制度の柔軟性が増し,既存の学問的慣習(英語学・英文学・英語指導法)に縛られずに研究テーマが設定できるようになってきています。

第二に,欧米の大学院において言語政策研究で博士号を取った人々の中に,帰国して日本で研究活動を続ける人が少しづつ増えています。

全数調査とサンプル調査

全数調査が最善というのは理論上の話です。実務的には,全数調査では結果が歪んでしまうため,抽出調査がむしろ好ましい場合もあります。

たとえば,「全国学力・学習状況調査」の全数調査による実施は,調査の信頼性の観点から根強く批判されています。

抽出ではなく全児童・全生徒に課してしまったことが災いして,自治体・学校の序列化に流用されるリスクが増大しています。さらに,その結果,テスト対策の授業を導入する学校・自治体が増え,正確な学力調査が困難になる恐れもあります(みながテスト対策に走ってしまったら,調査結果に「テスト対応能力」が紛れ込んでしまいます)。さらに,同調査がこのように競争目的で使われ始めると,公平性の点から次年度以降に同一の問題が出題できなくなり,経年比較が困難になります。

全数調査を選択したことで、調査としては本末転倒の事態に陥ります。

小学校英語の効果検証,先行事例

さも「小学校英語の成果の検証が今後の課題」のように書いたが,実は20年以上前から検証可能な土壌はあった。

小学校英語の実験校(公立小)は1990年代初めから存在したからである。そこで学んだ児童は既に成人しているため,しかるべき調査(追跡調査等)を実施すれば,長期的効果が検証可能である。

とはいえ,これを可能にするためには,実験プログラムを始める前の段階で適切な研究デザインを設計することが不可欠である。しかし,残念ながら,旧文部省・文部科学省小学校英語推進派の研究者が行ってきた実験プログラムは,因果モデルに対する理解が乏しかったため,「実験」後の効果の検証に耐えられるものではなかった。

「入試は学習指導要領に準拠すべし」というダブスタ――要は、測定と教育目的の緊張関係の話

「大学入試の出題内容を学習指導要領に準拠させるべきだ」という主張をしばしば聞く。

これはトンデモの人だけでなく、きちんとした英語教育研究者(とりわけテスティング研究者)研究者も言っているので、ストローマンを叩いているわけではない為念。むしろ、個別の命題としては(=内的には)一貫した説得力を持つため、真剣に取り扱う必要があるだろう。

 

テストが導く英語教育改革

テストが導く英語教育改革

 

一方で、指導要領のコンテクストまで視野に入れると、深刻な矛盾が目につく。指導要領に依拠するのが望ましいとして、ではなぜ指導要領の言語的側面だけに限定し、非言語的側面にまで拡張しないのか、という点。

学習指導要領では、国際理解・文化理解・コミュニケーションへの態度育成についてそれ相応のウェイトを置いて強調している。なぜ私達は(言語だけに焦点化して)こういう側面の学習には準拠しないのか。もっと言うと、異文化理解を大事にしている英語教育者ですら異文化理解を測定しなくても平気に見えるのはなぜか。教育目的と測定の矛盾を(哲学の素養のある人は)真剣に考えるべきだと思う。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/old-cs/1322544.htm

これを「揚げ足とっている」と思う人もいるかもしれないし、実際いるだろう。大変心外である。揚げ足とりどころかもはや矛盾含みでひっくり返って寝ている状態。見て見ぬふりしかできない人や、矛盾なわけないだろ!と吹き上がる残念な人は仕方ないが、哲学の素養のある人は(しつこい)真剣に考えるべきである。場当たり的な「指導要領に準拠」論では後々原理がガタガタになってしまう。

「入試は学習指導要領に準拠すべし」と「学習指導要領に書かれている目標のうち、異文化理解関連のものは入試に課さなくて良い」は明らかにダブルスタンダードである。

P と Q がダブルスタンダードのとき、原理的に解決するには次の3つの選択肢しかない。―― (1) Pを捨てる、(2) Qを捨てる、(3) PとQの両立する補助理論を入れる。

これを、今回の問題でパラフレーズすると次の通り。

  1. 入試は学習指導要領に準拠すべしという議論は、ダブスタなので破棄する
  2. 指導要領から、国際理解・文化・態度の育成という目標記述を除外する
  3. 「入試は言語面だけに準拠してOK」という主張を、ダブスタが回避できるように修正する(補助理論を入れる)

あくまで、これは原理的な話である。この文脈が理解できず、「こんなのはナンセンスだよ、だって現実的にこうなってるじゃん」と言う人がいるかもしれないが、それは結局、上記の3の補助理論の話をしているに過ぎない。

補助理論だという自覚がないまま、補助理論を語るのは避けたい。たとえ結論が同じ「3.」だったとしても、補助理論に対する自覚があるとないとでは大きな差である。

自分用メモ: Markdown (.md ファイル) からパワポスライドを作る

僕はパワポのヘビーユーザーだが、特殊な大人の事情(たぶん今後の人生で二度と経験しないと思われる事情)により、意地でもパワーポイントでスライドを作りたくなかった。
そのため、Markdown からパワポを出力できないか調べた。
大人しくパワポから作ったほうが早かった気はものすごくするが、勉強できたので良かった。この勉強が生かされるときは来るのだろうか。

概要

マークダウンファイルを pandoc 経由でパワポに変換。
※マークダウンからPDFを生成し、さらにそのPDF を Acrobat などのソフトで pptx に変換するという方法も紹介されていたが、正直キツい。折返し部分に強制改行が入るし、箇条書き記号の ● や ○ も画像で埋め込まれる。

 

Step 1 下書きのマークダウンファイルを作成する

ふつうのハンドアウトを書く要領で、ふつうにテキストエディタでふつうに作る。

Step 2 スライドとして調整する

  1. Marp というソフトを立ち上げる(このためだけにダウンロードした!)
  2. Marp に流し込む
  3. スライドを見ながら微調整
  4. とりいそぎ、sample.md で保存

Step 3 Pandoc を使って変換

  1. Pandoc を用意する(このためだけにダウンロードした)
  2. コマンドプロンプトを立ち上げる(最初は意味不明!カレントディレクトリの指定から覚えるレベルだった!)
  3. 以下のコマンドを打つ(コマンドの意味は不明だが、解説してくださってるサイトからコピペしたらうまくいった)
 pandoc sample.md -o sample.pptx 

Step 4 生成されたパワポファイルを修正する

日本語だったためかもしれないが、出力結果はけっこうヘボいです。ローマは一日してならず。パワポも一瞬にしてならず。コツコツ直すしかないようですね。(知らんけど)

 


 

参考にさせて頂いたサイト

ありがとうございます。たいへん助かりました。

Marp のすゝめ

qiita.com

azukipochette.hatenablog.com

英語教育時評「4技能入試は改革の切り札か?」

大修館書店『英語教育』11月号の英語教育時評に「4技能入試は改革の切り札か?」と題したコラムを寄稿しました。

8月、外国語教育メディア学会でのパネルディスカッションでの報告を、(力技で!)1700字にまとめたものです。

参考:LET2018パネルディスカッション 各報告者の資料ダウンロード先 - こにしき(言葉・日本社会・教育)

要約すると、「大学入試を変えると現場も変わるってよく言うけどそれって本当?なんだか high-stakes test なんだから影響あるのは当然だよねーみたいな風潮があるけど、テスティング研究者であれ誰であれ、検証してないでしょ。どっから来るのその前提?」という話です。政策研究の観点から論じました。

ちなみに、「好影響だけでなく悪影響もあるよ」という(陳腐な)話をしているわけでなくて、「そもそも影響あるっての確かめてなくない?なんでそんなに『ある』前提なの?」という立場です。

英語教育 2018年 11 月号 [雑誌]

英語教育 2018年 11 月号 [雑誌]

いただきもの:フランソワ・グロジャン著(西山教行監訳)『バイリンガルの世界へようこそ』

監訳者である京都大学の西山教行さんよりご恵贈いただきました。
ありがとうございます。
勉強させていただきます。

バイリンガルの世界へようこそ: 複数の言語を話すということ

バイリンガルの世界へようこそ: 複数の言語を話すということ