こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

松岡亮二編『教育論の新常識』に寄稿しました

松岡亮二編『教育論の新常識』(中公新書ラクレ)が発売されました。

私も「『グローバル化で英語ニーズ増加』の虚実」という章を書いています。

内容としては以下の論考(2019年)に、過去1年間(つまり2020年)の状況をフォローアップした補章を付したものです。

『中央公論』2019年8月号「『グローバル化で英語ニーズ増加』の虚実」 - こにしき(言葉・日本社会・教育)


目次はこちらにあります。

www.chuko.co.jp

「純ジャパ」が批判される根拠の切り分け

ソーシャルメディアで定期的に話題になる「純ジャパ」という用語について。

いつも議論がすれちがっているように思うので、最低限切り分けるべきポイントをメモしておく。


本ブログでの過去の言及は以下: 純ジャパ の検索結果 - こにしき(言葉・日本社会・教育)

こちらも拙著:アメリカ応用言語学会で聞いた「純ジャパ」論 (寺沢拓敬) - Yahooニュース(個人)


特定の言葉は、しばしば、「差別語であり使うべきではない」として批判の的にされることがある(そうした批判を疎ましく思う人からは「言葉狩り」と呼ばれる)。

ただし、「使うべきではない」とされる根拠は、実は一枚岩ではなく、概略、つぎの3つのパタンがある(まだあるかもしれないがメジャーなものを3つ)。

  • (a) その言葉には差別的な意図が込められているから、使うべきではない。
  • (b) その言葉の語形成のせいで、知らない人が聞くと差別語に感じるから、(「差別語を平気で使う人」と思われたくなければ)使うべきではない
  • (c) その言葉が対象にしている人あるいは対象とされていない人が不快に感じているから、使うべきではない

上記を「純ジャパ」でパラフレーズすると次のとおりである。

  • (a') 「純ジャパ」は差別的な意図で使われているから(少なくとも使われた歴史があるから)、使うべきではない
  • (b')「純+ジャパ」「純粋なジャパニーズ」という語形成のせいで、知らない人が聞くと差別語に感じるから、(差別者だと思われたくなければ)使うべきではない
  • (c') 非・純ジャパが、不快に感じるから、使うべきではない

とくに、いい意味でも悪い意味でも「無邪気」にこの言葉を愛用してきた人たちの反応でありがちなのが、「差別の意図で使ってないもん!」「人種的な意味じゃないもん!」というタイプの擁護である。

仲間内でキャンパス・ジャーゴンで楽しく会話してきただけなのに、とつぜん「ソトの人」から「そんな言葉を使ったらあかんよ」と言われるのが気に入らないという気持ちはわかる。わかるが、反論としては、的を外している。a' の論拠で批判している人はすくないからだ。

また、 c' もまだ中心的な論拠にはなっていないように思われる。というのも、この言葉の流通量がまだ限定的で、「被害を受けた当事者」は規模としては多くはないからである。ただし、実際に不快に感じる外国籍者等はすでに存在するので、その数が多くなっていけば、あるいはこの語がキャンパスジャーゴンから大衆語に成長すれば、近い将来、c' も重要な論点に含まれるようになるだろう。

というわけで、「純ジャパ」の語が批判されているポイントは、上記の b' の話である。

つまり、人種的な語形成の言葉で、非人種的な話をするのは、下品だ/頭が悪そうだ/鈍感だという美意識に基づく批判である。直接的な被害者がいるという意味での差別語ではないが、差別語に聞こえかねない語を平気で使うその人の資質を問題にしている。ただし、前述の通り、早晩、「直接の被害者を生み出す差別語」に進化する可能性も秘めている。

ちょっとわかりづらいと思うので、あえて比喩ると、子どもに「だれにでも等しく優しくできる人になりますように」という願いをこめて「優等人(ゆうと)」と名前をつけた。家族はみんな「いい名前!」「超イカしてる!」と盛り上がっている。しかし、部外者が、「そ、そんな名前…。ああおぞましや…。」と眉をひそめる、、、というのに近いだろうか。

北教大入試問題に拙著が出題されました(ウェブで見られます)

北海道教育大の入試問題(小論文)に拙著『小学校英語のジレンマ』終章が使われたという連絡を受けました。ありがとうございます。

当該の過去問は、期間限定で、同大学のウェブサイトに公開されています。

https://www.hokkyodai.ac.jp/files/00002500/00002512/36_r03_hen_hak_kyoiku.pdf

正直言うと、めちゃくちゃ難しいです。

JACET北海道支部大会で講演します(7月15日夕方)

大学英語教育学会(JACET)北海道支部 2021年度支部大会

2021年7月14日(水)~15日(木)オンライン(Zoom)

基調講演:寺沢拓敬「〈学術的〉英語政策研究のあり方」

プログラム・参加方法等詳細は支部ウェブサイトに掲示されています

中部地区英語教育学会(6月27日)で発表します

https://www.celes.info/aichi2020/program/

ウェブ調査をはじめとした非確率標本の補正:英語教育における意識調査・実態調査への応用

本報告では、非確率抽出の質問紙調査の補正方法を概観し、英語教育研究・応用言語学における意義を論じる。


この分野では、英語使用や英語教育に関する人々の行動・態度・意見について質問紙調査が行われることがあるが、そのほとんどは、確率標本抽出(=ランダム抽出)ではなく、非確率標本抽出(便宜抽出やスノーボール抽出、調査会社のモニターを利用したウェブ調査)である。よく知られているように非確率標本には代表性の点で問題が多いが、英語教育学界で具体的な改善策が議論されることはほとんどない。現状は、「安易な一般化には気をつけるべし」と注意喚起が行われているのみだろう(ただし具体的にどう気をつけるべきかは議論されない)。


一方、計量社会調査の分野では、非確率標本調査(とくにウェブ調査)を補正・改善する方法に関して議論が蓄積されつつある。そして、これは英語教育の調査でも、いくつかの条件をクリアすれば、容易に実行可能である。したがって、利用を積極的に検討すべきである。


その条件とは、具体的には、(1) 当該の非確率標本調査に、既存の確率標本調査と共通する設問が含まれている、(2) その共通変数の情報は、前者を、後者の構成比に近づけるのに役立つ、(3) 分析者に回帰分析の基本的な知識・技術がある(補正のための汎用ソフトが存在しないため)の3点である。


本報告では、発表者が行った英語使用実態調査(ウェブ調査)を素材にして、実際に上記の3点がいかにクリアできるか、そしてどのように補正値が推計できるかを示す(具体的には、傾向スコアを用いた層化重み付け法による補正を報告する)。そのうえで、補正後の値がどれだけ質の改善に寄与したかを評価する。最後に、この補正方法が、英語教育研究の別のタイプの調査(たとえば、ESPや意識調査)にどのように応用できるか議論する。

図解:ルイ=ジャン・カルヴェ『言語政策とは何か』

ルイ=ジャン・カルヴェ『言語政策とは何か』を久々に読んだ。意識高い界隈で流行っているようなので、本の内容について自分にだけわかればよいというノリで図解しました。

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この本は、大学院進学の直後に読んだ。当時(約15年前)は、言語政策を冠した和書で手に取りやすいものはこれくらいしかなかった。

ほぼ知識ゼロだったので、その時は、「トピックがとっ散らかっていてよくわからん」と思ったが、再読したら全然そんなことはなかった。むしろ、短い分量にもかかわらず、よく練られた章立てだと感心するほど。当該テーマへの背景知識が豊かになると、ロジックが追える(逆に言えば、ある作品が「非論理的」に見えるのは知識不足だから)というのの好例だろうか。

唯一、(世界の言語状況にはそこそこ知識はありつつも)「言語政策」の初学者が、若干困惑してもおかしくないなあと思ったのが、言語政策における「政策」の独特の射程。1章の一部および2章全体が、狭義の「政策」(権力による介入行為)を越えたものを扱っている部分は、つまづきのもとかもしれない。もっとも、これはカルヴェの独自さというより、言語政策研究自体が「政策」についてそういう境界設定をするということである。

2章までで読者が「ぜんぜん政策の話でてこないやん、俺はいったい何読まされてるんだろう・・・」と息切れしてしまうと、3章以降との連関が理解できなくなってしまう。自分もこんな感じで「とっちらかっている」という印象を受けたのかもしれない。

コロナ禍での体重変化

タイトルのような大げさな話ではないですけど、意味もなく体重データを取ってたのでブログ化にて成仏とします。

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点は測定した日。2日以上連続して測定した場合、線も描画。19年11月~20年3月や21年1月~の空白は面倒くさくて測定をしなかったため。

新型コロナの直後に急激に体重が減っているように見えますが、コロナ禍とは関係なし。2020年3月末、いつのまにか体重が増えている事実にびっくりして、4月からカロリー制限(というほどのものではなく単に炭水化物とお菓子を食べる量を減らしただけ)を始めた結果です。食べる量を減らして筋トレで基礎代謝を増加(実際のところは「微増」)するだけでけっこうやせますね。

ちなみに、入浴前(夕食のおよそ1時間後)に測定するようにしてましたが、コロナ禍で思いがけず、生活が規則的になったため(夕食・入浴の時刻はほぼ毎日同じになりました)、日による変動はかなり小さく、我ながら良い精度だなと思いました。