こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

中部地区英語教育学会(6月27日)で発表します

https://www.celes.info/aichi2020/program/

ウェブ調査をはじめとした非確率標本の補正:英語教育における意識調査・実態調査への応用

本報告では、非確率抽出の質問紙調査の補正方法を概観し、英語教育研究・応用言語学における意義を論じる。


この分野では、英語使用や英語教育に関する人々の行動・態度・意見について質問紙調査が行われることがあるが、そのほとんどは、確率標本抽出(=ランダム抽出)ではなく、非確率標本抽出(便宜抽出やスノーボール抽出、調査会社のモニターを利用したウェブ調査)である。よく知られているように非確率標本には代表性の点で問題が多いが、英語教育学界で具体的な改善策が議論されることはほとんどない。現状は、「安易な一般化には気をつけるべし」と注意喚起が行われているのみだろう(ただし具体的にどう気をつけるべきかは議論されない)。


一方、計量社会調査の分野では、非確率標本調査(とくにウェブ調査)を補正・改善する方法に関して議論が蓄積されつつある。そして、これは英語教育の調査でも、いくつかの条件をクリアすれば、容易に実行可能である。したがって、利用を積極的に検討すべきである。


その条件とは、具体的には、(1) 当該の非確率標本調査に、既存の確率標本調査と共通する設問が含まれている、(2) その共通変数の情報は、前者を、後者の構成比に近づけるのに役立つ、(3) 分析者に回帰分析の基本的な知識・技術がある(補正のための汎用ソフトが存在しないため)の3点である。


本報告では、発表者が行った英語使用実態調査(ウェブ調査)を素材にして、実際に上記の3点がいかにクリアできるか、そしてどのように補正値が推計できるかを示す(具体的には、傾向スコアを用いた層化重み付け法による補正を報告する)。そのうえで、補正後の値がどれだけ質の改善に寄与したかを評価する。最後に、この補正方法が、英語教育研究の別のタイプの調査(たとえば、ESPや意識調査)にどのように応用できるか議論する。