こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

言語政策における量的研究 (3):一般化=母集団推測

この記事の続き。


量的研究の長所としてしばしば一般化、つまり多数のケースを検討することで母集団の値が推測できることが言われるが、これは誤解なので注意してほしい。手元にある限られたデータから母集団が推測できるかどうかは、量的研究か否かではなく、対象者の抽出法(選び方)に依存するからである。

最も理想的な母集団推測は、ランダム抽出によるものである。方法の詳細は、サンプリング論の教科書等(例、廣瀬・稲垣・深谷, 2018)を参照されたいが、手続きとして必須の点は、(1)母集団を名簿などをもとに具体的に確定すること、(2)その母集団から、調査対象者を乱数などを用いてランダムに選び出すことである。

ただし、ランダム抽出はきわめて調査コストが大きく、言語政策研究で行われることは稀である。多くの研究者は、次善の策として、非ランダム抽出(有意抽出と呼ばれる)を用いているが、この場合、結果を母集団に一般化することはできない。この場合、結果の取り扱いは、非常に慎重になる必要がある。具体的にどう慎重にあるべきかは状況次第とはいえ、読者に対し何の開示もなく、結果をそのまま一般化したような議論を展開することだけは厳に慎むべきである。他方、その限界を断ったうえで、あくまで参考情報のひとつとして提示することは、多くの研究で慣例的に行われている。とはいえ、「あくまで参考情報だから」と言うだけでは、データの非正統的使用の免罪符にならない。有意抽出の手続き・条件をきちんと説明したうえで、どういった根拠でどの程度ならば母集団推測の参考になるかを詳説すべきである。