こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

科研データベースを用いた、英語教育研究の構成分野の分析

英語教育の実践と理論の問題は古くて新しいテーマですが、「《学問》としての英語教育とは何か?」、「いや、そもそも英語教育は《学問》になるのか」という疑問をよく聞きます。「なる(なるべき)」「ならない(なるべきではない)」といった論点は規範的な問いなので、一筋縄にはいきませんが、「いま《学問》としてどのようになっているか」という記述的な問いであれば、ちょっと工夫すれば出来そうな気もします。


というわけで、実験的にやってみました。


以下の、科学研究費データベースでは、科研の報告書などが載っていますが、ここでつぎのような手順で、英語教育研究者データを抽出しました。

  1. 「研究課題」内に「英語教育」を含む研究者を検索(368件該当)
  2. テキストファイルにコピペ
  3. 「研究課題」名のみ抽出


簡単にいうと、研究者ひとりひとりが科研を行う際、どの分野を専門だと選択したかという話しです。人によっては、「外国語教育」しか選択しなかった人もいますし、「外国語教育/英語学/教育工学...」と複数の分野にまたがっている人もいます。
「買い物かご」に、「商品」(=専門分野)を各自が自由に入れているというイメージだとわかりやすいでしょう。ちなみに、データの整理も、この「買い物かご」形式(正確には、"transactions")で行いました。

該当数のランキング

では、さっそく結果を見てみます。まずは、どのようなカテゴリが上位に来ているかについて。

選択されたカテゴリの数はかなり多く、それを全部並べていてもかなりわかりづらいことになってしまうので、とりあえず10人以上が選択した「研究分野」のみを列挙しています。その結果、計15個のカテゴリが該当しました。
上位は「外国語教育」「教科教育」というように、英語教育研究という点では、常識的な分野が並んでいます。ただ、下の方に行くと、「日本語教育」「教育社会学」「科学教育」など、かならずしも「英語」と関わりがなさそうな分野も見られます。

各「分野」の位置関係

ここで気になるのは、どの分野が近く、どの分野が遠いのかという点です。こういった問いに対し、数学的にデータを要約することで、わかりやすい「イメージ」を与えてくれる対応分析(correspondence analysis)という手法があります。なお、対応分析は、厳密な統計学的検定などを行うわけではなく、また、変数の取捨選択によって全体の構図が大きく変わることがあるので、本来は入念なチェックが必要です。今回はあくまで「速報版」としてご理解ください。


とりあえず、上であげた、10以上の分野15個を使って対応分析をしてみます。

その結果がこちら。

赤い字が「分野名」の相対的位置、そして、ごく小さい黒い字の数字が研究者です(ケース番号で表しています)。とりあえずここでは、赤い字の分野だけに注目すればいいでしょう。少し見えにくいですが、左下の「外国語教育」の周りに教科教育関係や言語学関係が集まっています。そこから、右に行くにしたがって、文学関係が広がっているのが分かります。
ここで、注目すべきは、「教育学」が比較的遠い位置にあることです。以前私はこの論考において、英語教育研究では「教育学」の知見が適切に援用されていないと指摘しましたが、今回の結果は、科研を獲れる研究者の動向を見た場合でも、それは当てはまる可能性が高いと言えます。


よく考えると、英語教育ならば「外国語教育」が中心になるのは当たり前です。もうすこし、周辺的な分野の相対的な位置関係が知りたい気もします。というわけで、「外国語教育」を削除して、同じく対応分析をしてみます(対応分析では一般的に、こういう作業をすると、結果がガラッと変わることはよくあります)

教育工学の位置がだいぶ変わりましたが、それ以外の相対的な位置関係は変わっていないようです(おそらく、「教育工学」は「外国語教育」とかなり近接度の高い分野なんでしょう)。ここでの注目はやはり、「教育学」の位置です。中心からは外れた場所にあります。


ちなみに、私の専門は「教育社会学」ですが、いずれの図でも、最も遠いところにプロットされています。こういうのを見ると、何とも言えないキモチになります(笑)。


今回は「速報版」で、きちんとした分析は、この後しっかりやりますので念のため。

2011年6月4日追記

研究分野のラベルに重複の疑いが強いものがいくつか見つかったので、それらを統合して再分析しました。
【微修正】科研データベースによる「英語教育研究」の構成分野 - こにしき(言葉、日本社会、教育)