こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

「日本人の9割に英語はいらない」は本当か?

論文でました。営業です。


論文書誌情報

寺沢拓敬 (2013) 「『日本人の9割に英語はいらない』は本当か? ―仕事における英語の必要性の計量分析」『関東甲信越英語教育学会学会誌』第27号、pp. 71-83.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/katejournal/27/0/27_KJ00009296526/_article/-char/ja/




『日本人の9割に英語はいらない』という本が以前話題になりました。

日本人の9割に英語はいらない

日本人の9割に英語はいらない


「9割にいらない」といわれても、ふつうの人は、「まあそんなものか」と思うでしょう。1割は妥当な線かな、と。ただ、英語使用者に囲まれがちな人は認知バイアスのせいで必要性を過大に高く見積もる傾向があるので除外します。たとえば、外国語業界関係者、英語教師、外資系企業社員、貿易・駐在経験者、長期留学経験者、あと、グローバル人材あたりは「ふつうの人」の「ふつうの感覚」をもつのは困難でしょう(笑)。


ただ、上の著者の成毛氏(元マイクロソフト日本支社取締役)の、「必要な人=1割」の算出方法はかなり荒っぽくて、いまいち信頼が置けません。なんでも成毛氏の推計は「フェルミ推定」に基づくとのこと。何だかすごそうな手法ですが、実際はなんてことはなくて、要は、じっくり調査する時間やデータがないときに、とりあえずいくつかの仮定をもとにおおざっぱな数値を概算する方法です。


もちろんデータがなければ、おおざっぱに「1割」という計算もわかるんですが、データは少ないながらもすでに存在します(けっこう以前からあります)。もちろん成毛氏は研究者というわけではないので、氏を責める意図はありません。成毛氏の推算を批判するのが意図ではなくて、むしろ氏の推算の補完です。つまり、僕が現在手に入るデータを分析して、もうすこし信頼できる英語の必要度を推算しちゃおう!というノリで書いた論文です。英語の必要性について尋ねた設問を含む社会調査(social survey)がすでに行われていて、そのうちのいくつかは、研究者向けに公開されています。それを、貸してもらって分析するという手法で、社会科学の分野では一般的に2次分析(secondary analysis)と呼ばれています。外国語教育研究ではほとんどされることはない手法(らしい)ですが、社会科学、たとえば労働経済学あたりではむしろかなりメジャーな手法のはずです。


結果としては、成毛説「必要な人=1割」よりもっと低くなっちゃいました。
幅を持って見積もって、数%〜1割程度。


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もうすぐ論文アーカイブで公開されるらしいですが(CiNii にリンクが出るはず)、もし今すぐ読んで頂けるような方がいらっしゃれば、ご連絡いただければドラフトをお送りします。

Abstract
This paper examines Japanese workers’ needs to use English for occupational purposes, employing a statistical analysis of several datasets from social surveys based on a random sample of the entire workforce in the country. Although many policy makers, business leaders, and English language teachers often emphasize the occupational importance of English proficiency, there has been little research which precisely estimates how many workers are required to use English in their workplaces. Therefore, a secondary analysis was conducted using five datasets with a random sample: Japanese General Social Surveys (2002, 2003, 2006, and 2010 versions) and Working Person Survey (2000). The results show that (1) less than 10% of the respondents use English in workplace, (2) about 40% feel the needs to use English, and (3) the responses vary widely according to their demographic and occupational factors such as type of job, educational background, and firm size. Based on these findings, the paper discusses the validity of foreign language education policies of the Japanese government.