こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

『言語政策リサーチメソッド・実践ガイド』ログ(1章、3-4章、6−9章をまとめてドーン!)

Research Methods in Language Policy and Planning: A Practical Guide (GMLZ - Guides to Research Methods in Language and Linguistics)

Research Methods in Language Policy and Planning: A Practical Guide (GMLZ - Guides to Research Methods in Language and Linguistics)

前文を読んで、大学院の教科書にしようかとか、「日本の英語教育政策研究」レビュー論文のネタにしようかとか、あわよくば翻訳しちゃおうなどと夢想。ワクワクしながら読み始めたがページをめくるたびに裏切られた感を満喫しているなうです。簡単に言うと、メソドロジーの本なのに、「おれはこういうメソッドでやってる」っていう話ばかりで、メソッドをメタ的に見ている視点がないこと、また、見取り図を提示している人がだれもいないので、特定のメソッドについて論じている各章が宙に浮いているなど。詳細は後日。


いくつか既にまとめている(以下「過去ログ」参照)が、ここでは「まとめ未満」の読書ログ(=読書[をしたという事実を記録する]ログ)をつけておきたい。

第1章 Introduction: The Practice of Language Policy Research. By F. M. Hult and D. C. Johnson

導入。簡単な歴史も書いてある。1960年代・70年代のいわゆる「御用学問」時代から80年代以降の critical turn へ。

第3章 Researcher Positionality. By Angel Lin

リサーチャーの持つ認識枠組み(認識論的な意味での知識観)によって、リサーチのあり方が大きく変わるよという話。

ハーバーマスの著作に依拠して知識の三類型を行っている。すなわち、technical vs. practical vs. critical.

以上の三類型それぞれに、量的研究・質的研究などのリサーチパラダイムマッピングしているんだが、正直、うまくいってるようには思えない。ハーバーマスはリサーチメソドロジーの研究者じゃないわけで、ここでの「呼び出し方」は「私は哲学も読んでいます」アピールをしたかったんだけちゃうかと思ってしまう(気持ちはよくわかる)。ただ、マッピングした表は ”adapted from MacIsaac 1996” と書いてあるので、そこも微妙。

positivist-paradigm の説明がちょっと古すぎて、そして、デフォルメ化・ストローマン化されてるところも気になった。(著者の Lin は有名な critical applied linguist なので、むべなるかな、ではある)

香港政府による English/Chinese medium instruction 政策について、3タイプのリサーチを実例として示している。(実例があるのでわかりやすい――実証主義サゲ、批判的研究アゲだが)

第4章 Ethical Considerations in Language Policy Research. By Suresh Canagarajah and Phiona Stanley.

言語政策研究は、人の認知を対象とする学問ではなく、人の生活を対象とする学問。生活への侵襲性があるが、侵襲しなければリサーチはできないというジレンマがある。そのジレンマにいかに向き合うかという、「所属機関で倫理審査に通るための研究倫理」以上のことについて論じている。


6章 Language and Law. By Dimitry Kochenov and Fernand de Varennes

言語に関する法的介入(言語権など)をめぐる複雑さについて論じているが、正直、難しくて(この分野に明るくなくて)わからなかった。

7章 Exploring Language Problems through Q-Sorting. By Joseph Lo Bianco.

Q-sorting/Q-methodology を使った言語政策研究のススメ。初めて聞いた。もともと心理学の手法らしい。
ツイッター知名度についてアンケートした結果は、こんな感じ。


正直、これを読んだだけではどういう点で美味しい手法なのかわからなかったので、保留。


8章 Ethnography in Language Planning and Policy Research. Teresa L. McCarty

普通のことが書いてある。(普通のことしか書いてない)

9章 Classroom Discourse Analysis as a Lens on Language-in-Education Policy Processes. By Marilyn Martin-Jones.

教室ディスコース。一見、「それのどこが言語政策に関係あるの?」と思う人も多いかもしれないが、(1) LPP study では「政策」という言葉を日常語よりも広く捉える。(2) 政府発の政策を現場などミクロのアクターがどう受容するかという論点も立派にLPP という補助線を入れれば何ら問題なく、LPPに接続される。・・・・のだが、いろいろ気になる記述ががが

p. 96.
北米の応用言語学で大流行の「ブルデュー=悲観論者」論。原典読んでるんだろうか。だれかのをコピペしてるんじゃないだろうか。
p. 99.
Table 9.1 細部に異論はあるけれど、政策プロセス(policy-creation vs. -interpretation vs. -appropriation)で3つの立場に整理するのはよいアイディアだと思う。教室ディスコースの射程は(当然ながら) 2番目と3番目に該当する。