こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

卒論、執筆のヒント(メモ)

仕様変更により、Slack無料版では、しばらく前のアーカイブが消滅するらしいので、ゼミの卒論Slackで行ったコメントのうち汎用性のありそうなものをこちらに移します。

グーグルアンケートフォームのタイトル「アンケート」はあまり良くない。

調査タイトル「~に関するアンケート」は、(聞く人によっては)自由研究のように響いて軽視されかねないので、「質問紙調査」のような硬い表現のほうが適切です。

関西大学の「オンライン授業に関する学生の本音」調査

関西大学の「オンライン授業に関する学生の本音」調査結果。参考になります。 https://www.kansai-u.ac.jp/ja/assets/pdf/about/pr/press_release/2020//No38.pdf

特にオンライン授業に関する調査研究をする人向け】

1.

この手の調査研究は、本来は、比較を通して新たな発見をするためのものです。比較が大事。小学校の自由研究のように自明のことを提言したり、道徳の授業のような漠然とした教訓を得るためのものではありません。以前ゼミで述べたように、1年生と2年生以上の違いとか、ジェンダーの違いとか、進路観の違いなどで、オンライン授業への評価が変わってきたりする点などにフォーカスして考察してください。逆に、まったく異質のプロフィールの人のあいだで予想外に共通していた点などに注目してもおもしろいでしょう。

2.

インタビューの場合、「直接引用」と「筆者による要約」を明確に使い分けてください。「直接引用」では言ったことをそのまま書くべきで、過剰なクリーニングをしたり、要約的に書いてはいけません。ドラマのセリフのように整然としたものだとだと、最悪の場合、「インタビューの捏造」を疑われかねません。

  • 直接引用の際は、文字起こししたものを使う
  • 直接引用ではなく、地の文で記述するときには、要約OK

以上の基準に従って修正してください。

卒論全体に関して

インタビューやアンケートの分析の部分はあくまで「証拠集め」です。証拠集めは、卒論の顔ではなく、単なる「踏み台」でしかありません。あらゆる論文・レポートは、考察部分が本番です。考察には最低でも数ページを割いて議論してください。※分析のパートに考察を埋め込んで書くのはOKです。この書き方をしている人は以上は無視してください。

J1とJ2

私の肩書を「教授」と書いている人がいますが、ただしくは「准教授」です。サッカーのJ1とJ2くらい違います。

データを用いた卒論の一般的な章立て

データを用いた卒論の一般的な章立てを示します。何か特別の意図がある場合は逸脱しても構いませんが、則っておいたほうが無難です。

  • 背景・先行研究・リサーチクエスチョン(←それぞれ独立した章にすることもある)
  • 調査方法・データ・対象者・分析手法の説明
  • 分析結果の提示(単なる統計数値の提示などで、理論的な考察は入れない)
  • 考察・議論(結果をもとに解釈を述べ、理論的な議論をする部分)
  • 結論

これは IMRD形式と呼ばれていて、世界中で使われています。(Introduction → Method → Results →Discussion)

論理展開の都合上、以下の通り、結果と考察を同時に述べるという章立てもあります。インタビュー系にはこういう形で書く人も多いです。(質問紙調査の場合はそれほどでもないですが)

  • 1 背景・先行研究・リサーチクエスチョン(←それぞれ独立した章にすることもある)
  • 2 調査方法・データ・対象者・分析手法の説明
  • 3 結果と考察
    • 3.1. 結果1とその考察
    • 3.2. 結果2とその考察
    • 3.3. 結果3とその考察
       …
  • 4 結論

インタビュー結果全般に対してアドバイス

インタビュー調査における論証は、通常、以下のような構造です。(順序という意味ではなくて「構造」の意味)

  • A「文字起こし部分・言ったことそのまま」(データ)
  • B:Aについての筆者による要約(解釈)
  • C:Bをもとにリサーチクエスチョンへのヒントを述べる(考察)

「言ったことそのまま」が完璧な根拠になることはほとんどありません。かならず、筆者による要約というクッションが必要になります。A-B-Cの構造を意識して書いてみてください。

  • 注1)Cは後の章にまわしても構いません
  • 注2)Bの要約を先に述べて、Aを後からもってくるという順番もOKです。以下が例

    ○○に対して××という懸念を述べた人も多い。たとえば、Xさんは次のように話した。「私はやっぱりxxxxx xxxx xxxx xxx ですね xxxx xxxx xxx 」

形式的な文章では「私」を前に出さない

何人かのひとの論文には、たまに、「私」が全面に出てきてしまう文体が散見されます。小中高の「意見文」やエントリーシートの自己アピールならば良いですが、卒論は客観的な体裁を保つのが大事です。会社などで取り扱う企画書・報告書もおそらく同様に客観性が重視されるでしょう。

「自分(我が社)がXをやってみたかったから」という本音・本当の理由を愚直に書く必要はなく、「Xを行うことには一般的に意義がある。なぜなら・・・」と第三者的に書くのが大事です。

アンケート調査の人向け「考察」の書き方

アンケート調査にかぎらず、「考察」パートは卒業論文の本体です。ここを最低でも2頁、理想的には数ページは割いて議論してください。 実質的に、分析結果しか書かれておらず、考察が欠落した文章が散見されます。 分析結果、分析結果の説明、考察の関係は、以下の通り。

  • A:アンケート結果をクロス表などで分析した数値(事実)
  • B:Aについて、筆者による言葉での説明
  • C:Bをもとにリサーチクエスチョンへのヒントを述べる(考察)

Bの発見を「踏み台」にして、深い話を展開する。深い話とは、たとえば、もっと踏み込んだこと、大胆なこと、多くの人が気づいていなかったこと、先行研究では明らかにされていなかったことなど。こうした性格上、ある程度は主観的な話がはいってもよい。