こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

【統計調査】日本人の英語使用は、ネイティブスピーカー相手よりも、ノンネイティブ相手の方が多い

昨年3月に私が行った「日本人就労者の英語使用調査:第一次調査」から、テーマを絞って統計をご紹介します。

本調査の調査設計・ワーディングの詳細は以下にありますので、省略します。(それほど癖のあるデザインはとっていないと思うので、常識的かつ現実的な手法でデータが取られていると信じていただいていいと思います、、、が気になる方は、以下の文献――とくに1つ目のもので詳細を論じています――を参照して下さい)

  1. 寺沢拓敬 2021. 「日本人就労者の英語使用頻度 : ウェブパネル利用の質問紙調査に基づいて」『関西学院大学社会学部紀要』 http://hdl.handle.net/10236/00029843
  2. Terasawa, T. 2021. 'Web Survey Data on the Use of the English Language in the Japanese Workplace', World Englishes, 2021 (Online First).   → A draft version (pdf)
  3. Terasawa, T. (2022) Does the pandemic hamper or boost the necessity for an international language? A survey on English use frequency among Japanese workers. International Journal of the Sociology of Language.  https://terasawat.hatenablog.jp/entry/2022/09/21/081327

誰を相手に英語を使う? ネイティブスピーカー vs. ノンネイティブ?

本記事でフォーカスするのは、誰を相手に英語を使うかです。

現在、世界中に多数の英語使用者がいます。 その内訳は、ネイティブスピーカー(つまり母語が英語の人)よりも、ノンネイティブ英語使用者(母語を習得したあとに英語を身につけた人)のほうが圧倒的に多いことがよく知られています。

母語が異なる人同士がコミュニケーションをとる際、共通語として、英語が選択されることも多くなりました。応用言語学者は、このような状況を指して、「リンガフランカとしての英語」(English as a lingua franca)と呼ぶこともあります。

他方、日本の英語教育は、伝統的にネイティブ至上主義が強いことも有名です。最近ではそうでもないですが、一昔前の教科書の登場人物を見ると、日本人か英語圏出身者しかいないという場面が多く、そこで繰り広げる会話は、ネイティブ同士の会話か、さもなくば、ネイティブと日本人の会話でした。 つまり、ノンネイティブ同士の会話というのはあまりなく、その点で、世界の英語使用者人口構成と大きく乖離してきました。

実際の使用状況はどうか?

では、日本人(就労者)は、どれくらいの頻度でネイティブと、あるいは、ノンネイティブと英語を使っているのでしょうか。

上記の調査には、以下のような設問があります。

まずはネイティブスピーカーについて。(引用中の強調は原文ママです)

過去1年に、仕事で一度でも英語を使った方に質問です。(使わなかった方は、以下は「全くなかった」を選んでください)。


仕事で、英語のネイティブ・スピーカー英米人など)と、英語でどれくらいやりとりをしましたか。

(以下からひとつ選択)
□ 週数回以上
□ 週1回程度
□ 月1回程度
□ 年数回程度
□ 年1回程度
□ 全くなかった

つぎに、ノンネイティブに関して。選択肢は同一ですので割愛します。

仕事で、英語のネイティブ・スピーカーではない外国人と、英語でどれくらいやりとりをしましたか。

もうひとつ、ノンネイティブではあるけれども、相手が日本人の場合を独立した設問で聞いています。 「日本人同士で英語で話す人なんているの?」と不思議に思うかもしれませんが、英語で仕事をしている人ならよく知っているとおり、日本語ができない人が会話に加わっていた場合、英語に切り替わる(切り替えざるを得ない)場面というのはよくあります。実際の設問でも、くどいとは思いつつ、そういう補足を入れながら尋ねています。選択肢は上記と同じです。

仕事で、日本人と、英語でどれくらいやりとりをしましたか。
(場面としては、たとえば、日本人社員・外国人社員の混成グループなど共通語が英語である状況です)。

平均回数

さっそく統計値を簡単に見てみましょう。

一年あたりの平均回数を算出すると次のとおりです。ちなみに、本調査はウェブパネル調査のため、ウェブサンプル固有のサンプリングバイアスを軽減するため、ランダムサンプリング調査(JGSS)に近づくような補正をしています。つまり、単に全サンプルの単純平均をとったわけではありません。1

  • ネイティブと英語を使った: 平均 2.7回 /年
  • ノンネイティブと英語を使った: 平均 2.5回 /年
  • 日本人相手に英語を使った: 平均 1.3回 /年

使用経験率

つぎに、過去1年に、少なくとも一度は使ったと回答した人の割合です。

  • ネイティブと英語を使った: 10.4%
  • ノンネイティブと英語を使った: 12.9%
  • 日本人相手に英語を使った: 5.6%

ノンネイティブ相手に英語を使うことの方が多い

上記どちらの指標で見ても、ネイティブ相手よりも、ノンネイティブ(外国人+日本人)相手のほうが多いことがわかります。 とはいえ、英語使用頻度は必ずしも高くはないわけで(平均して年数回程度というのはなかなか低い頻度でしょう)、大多数の人は「誰とも英語を使わない」が真実に近いということは留意しておくべきでしょう。

世界の社会言語学的状況という観点から見れば、容易に予想できた結果ではありますが、経験的な調査で推定した研究はまだごくわずか(少なくとも日本にはまだない)と思いますので、上記の数値は有用なものだと思います。

容易に予想できたと言いましたが、正直に言うと、私は、ノンネイティブ相手の使用がネイティブ相手の使用の2, 3倍程度にはなるのではないかと予想していたので、意外とネイティブ相手の使用が「根強い」という結果が出たのは少し意外でした。

参考文献


  1. 詳細は上記の 2. の論文を確認して下さい。