これも(一連の昭和20年代の英語教育統計に関する記事)の続編。
今回のデータも、以前も引用した「東京都高等学校一年生英語学習調査」の1956年調査版。例のごとく、大修館『英語教育』より孫引き(1956年8月号 pp.12-14)
今回の調査から、東京都だけでなく、「地方」という東京以外の自治体が参加している(具体的にどこの自治体かは上記の記事には記載なし)。以下のグラフは、同年の東京都と「地方」を比較したものだが、両地域のグラフの形状の相違が一目瞭然である。
つまり、東京では、いずれの学年でも、実に95%以上の学校が週4時間以上の授業時間数を確保している。そして、「5時間以上」の学校が学年が上がるにつれて増加していることがわかる。この点に関して、上記記事の筆者(池谷敏雄氏)は、
おそらく本年[=1956年]初めてアチーブ[=高校入学時の適性検査で、現在の「高校入試」に相当]に英語が加えられたことに対する反応であろう。
と分析している。
一方、地方も「4時間以上」が多勢をしめるものの、東京都ほど「5時間以上」のシェアはなく、「4時間」の学校が多数である。学年が進んでも、「5時間以上」の学校はそれほど増えない。
授業時数の都市・地方間格差は、現代の視点から見ると、かなり奇異にみえるかもしれないが、
英語については,これを非常に必要とする地方もあるであろうが,またいなかの生徒などで,英語を学ぶことを望まない者もあるかもしれない。それで,英語は選択科目となったのである。
という「英語科の選択科目化の根拠」を見れば、じゅうぶん納得がいく。むしろ不思議なのは、必ずしも「英語の必要性の地域差」が劇的に縮まったとは考えられないにもかかわらず、昭和30年代以降、授業時数の格差が急速に縮まっていったことである。この話はまた後日。
Rスクリプト(元データ提示を兼ねる)
### 1956年に行われた東京都高等学校一年生英語学習調査 # 調査では東京都と地方をあわせて1,2000名以上の生徒が学習調査に参加した # 結果は東京・地方別に提示 ### 東京:中学英語時数 x0 <- matrix(c( # 実数 3222,5443,375,31,3,13 ,4237,4655,168,14,1,13 ,5086,3872,106,14,1,9) ,3,6,byrow=T) colnames(x0) <- c("5時間以上","4時間","3時間","2時間","1時間","0時間") rownames(x0) <- c("中1(53年度)","中2(54年度)","中3(55年度)") X0 <- x0/rowSums(x0) ### 地方:中学英語時数 x1 <- matrix(c( # 実数 448,2505,253,31,0,19 ,568,2480,179,16,0,13 ,978,2041,137,53,2,45) ,3,6,byrow=T) colnames(x1) <- c("5時間以上","4時間","3時間","2時間","1時間","0時間") rownames(x1) <- c("中1(53年度)","中2(54年度)","中3(55年度)") X1 <- x1/rowSums(x1) # 東京・地方あわせてプロット par(mfrow=c(1,2),mar=c(5,4,4,1)) matplot(t(X0),type="b",axes=F,ylim=c(0,max(c(X0,X1))) ,xlab="授業時間数",ylab="回答者(%)",main="1956年・東京都" ,lwd=1:3,col=1,lty=1,pch= L <- c("1","2","3")) axis(1,1:6,colnames(x)) axis(2,seq(0,1,by=.1),seq(0,100,by=10),las=2,cex.axis=.8) legend(6,max(c(X0,X1)),xjust=1,rownames(x),lwd=1:3,col=1,pch=L) matplot(t(X1),type="b",axes=F,ylim=c(0,max(c(X0,X1))) ,xlab="授業時間数",ylab="回答者(%)",main="1956年・地方" ,lwd=1:3,col=1,lty=1,pch= L <- c("1","2","3")) axis(1,1:6,colnames(x)) axis(2,seq(0,1,by=.1),seq(0,100,by=10),las=2,cex.axis=.8) legend(6,max(c(X0,X1)),xjust=1,rownames(x),lwd=1:3,col=1,pch=L)