こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

英語授業時数の地域間格差(1950年代なかば)

これも(一連の昭和20年代の英語教育統計に関する記事)の続編。

今回のデータも、以前も引用した「東京都高等学校一年生英語学習調査」の1956年調査版。例のごとく、大修館『英語教育』より孫引き(1956年8月号 pp.12-14)


今回の調査から、東京都だけでなく、「地方」という東京以外の自治体が参加している(具体的にどこの自治体かは上記の記事には記載なし)。以下のグラフは、同年の東京都と「地方」を比較したものだが、両地域のグラフの形状の相違が一目瞭然である。

http://dl.dropbox.com/u/4689919/BLOG_Pict/1955TokyoLocal_Hours.png

つまり、東京では、いずれの学年でも、実に95%以上の学校が週4時間以上の授業時間数を確保している。そして、「5時間以上」の学校が学年が上がるにつれて増加していることがわかる。この点に関して、上記記事の筆者(池谷敏雄氏)は、

おそらく本年[=1956年]初めてアチーブ[=高校入学時の適性検査で、現在の「高校入試」に相当]に英語が加えられたことに対する反応であろう。

と分析している。


一方、地方も「4時間以上」が多勢をしめるものの、東京都ほど「5時間以上」のシェアはなく、「4時間」の学校が多数である。学年が進んでも、「5時間以上」の学校はそれほど増えない。


授業時数の都市・地方間格差は、現代の視点から見ると、かなり奇異にみえるかもしれないが、

英語については,これを非常に必要とする地方もあるであろうが,またいなかの生徒などで,英語を学ぶことを望まない者もあるかもしれない。それで,英語は選択科目となったのである。


学習指導要領英語編(試案)昭和二十二年度

という「英語科の選択科目化の根拠」を見れば、じゅうぶん納得がいく。むしろ不思議なのは、必ずしも「英語の必要性の地域差」が劇的に縮まったとは考えられないにもかかわらず、昭和30年代以降、授業時数の格差が急速に縮まっていったことである。この話はまた後日。

Rスクリプト(元データ提示を兼ねる)

### 1956年に行われた東京都高等学校一年生英語学習調査

 # 調査では東京都と地方をあわせて1,2000名以上の生徒が学習調査に参加した
 # 結果は東京・地方別に提示

### 東京:中学英語時数
x0 <- matrix(c(            # 実数
   3222,5443,375,31,3,13
  ,4237,4655,168,14,1,13
  ,5086,3872,106,14,1,9)
 ,3,6,byrow=T)
 colnames(x0) <- c("5時間以上","4時間","3時間","2時間","1時間","0時間")
 rownames(x0) <- c("中1(53年度)","中2(54年度)","中3(55年度)")
X0 <- x0/rowSums(x0)


### 地方:中学英語時数
x1 <- matrix(c(            # 実数
    448,2505,253,31,0,19
   ,568,2480,179,16,0,13
   ,978,2041,137,53,2,45)
 ,3,6,byrow=T)
 colnames(x1) <- c("5時間以上","4時間","3時間","2時間","1時間","0時間")
 rownames(x1) <- c("中1(53年度)","中2(54年度)","中3(55年度)")
X1 <- x1/rowSums(x1)


# 東京・地方あわせてプロット

par(mfrow=c(1,2),mar=c(5,4,4,1))

matplot(t(X0),type="b",axes=F,ylim=c(0,max(c(X0,X1)))
       ,xlab="授業時間数",ylab="回答者(%)",main="1956年・東京都"
       ,lwd=1:3,col=1,lty=1,pch= L <- c("1","2","3"))
   axis(1,1:6,colnames(x))
   axis(2,seq(0,1,by=.1),seq(0,100,by=10),las=2,cex.axis=.8)
   legend(6,max(c(X0,X1)),xjust=1,rownames(x),lwd=1:3,col=1,pch=L)

matplot(t(X1),type="b",axes=F,ylim=c(0,max(c(X0,X1)))
       ,xlab="授業時間数",ylab="回答者(%)",main="1956年・地方"
       ,lwd=1:3,col=1,lty=1,pch= L <- c("1","2","3"))
   axis(1,1:6,colnames(x))
   axis(2,seq(0,1,by=.1),seq(0,100,by=10),las=2,cex.axis=.8)
   legend(6,max(c(X0,X1)),xjust=1,rownames(x),lwd=1:3,col=1,pch=L)