こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

修正「平泉試案」

先日の記事でとりあげた平泉・渡部論争(1974年)には続編があったのでご紹介。


たいへんな物議をかもした「平泉試案」から4年後の1978年、平泉渉は、つぎの論文で、「修正平泉試案」とも呼べる英語教育改革案を発表した。

  • 平泉渉 1978 「今の英語教育はこれでいか」 『Voice』(PHP研究所)5月号、pp. 189-197.


全9ページ中、「修正・試案」の部分自体は1ページ程度で、それ以外は、当時の英語教育のあり方に対する批判に当てられている。この論文でも、その4年前の渡部昇一との論争が強く意識されているようで、渡部が持ち出していた論点がいくつも出てくる。見出しは次の通り:

  • 再び英語教育のあり方を問う
  • 「薄れてきた効用」の意識の差
  • コスト高で成果もなし
  • 中途半端な"能力"
  • 座敷の自転車乗りをやめよ
  • 提案したい一つの試案
  • 矛盾を順次つぶして
  • 無数の神話のモヤに隠されて
  • おわりに


上記の「提案したい一つの試案」が、問題の「修正平泉試案」にあたる。全部で9項目の提案から構成されている。

1. 主として英語

このコースは主に英語を取り扱う。その他の外国語のコースもニーズによって取り入れる。

2. 学校段階は問わない

このコースは中・高・大のどの段階に設置してもよい

3. 段階制

5ヶ月程度で完了するコースを段階的に上がっていく方式をとる(6段階程度)。
各段階で修了テストを行い、進級の目安とする。

4. 柔軟な学習継続

上記の6つの学習段階は、生徒・学生の学年には依存しない。
中学卒業時に4段階目までしか到達しなかった場合でも、高校から5段階目から始めることが可能。

5. 従来の英語クラスの存続

受験用の英語クラスはひきつづきのこす

6. 英語コース修了試験による「受験英語」の代替

ある段階まで英語コースを修了した受験生には英語の入試を免除できる制度を取り入れる

7. 段階制度の国際標準化

英語コースの段階システムは、国際的な英語力尺度(TOEFLなど)と対応させる

8. ネイティブスピーカーの採用

できるだけ多くの「本国人」を採用する。
国や自治体はそれに必要な財政措置をとる。

9. クラスサイズ

クラスは25名程度


1974年の「平泉試案」では、当時の英語教育の教育制度を根底から変えるような提案だったが、今回の「修正試案」は、現行制度と新制度の二本立てになっている。「現行制度」を擁護する反対派の声を受けてのことだろうか。