こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

英語(力)が日本経済に与える影響


Yoko Kobayashi. 2013. Global English capital and the domestic economy: the case of Japan from the 1970s to early 2012. Journal of Multilingual and Multicultural Development, 34(1). 1-13. http://dx.doi.org/10.1080/01434632.2012.712134


"Global English capital" つまり「英語はグローバル経済に不可欠な鍵(=資本)」という日本の国内外でまことしやかにいわれている言説。この言説が、日本のケースにあてはまるかどうかを様々な先行研究・データを駆使しながら検討した研究。想定読者はおそらく応用言語学者、言語政策研究者、言語教育研究者(とりわけ英語教育)。主たる焦点は、経済(学)的な検討で、それは結論部での記述「言語政策を研究する上で、とりわけ経済学的な『知』が今後ますます不可欠 *1」にも象徴されている。

要約

アジアをはじめとした新興国において、欧米(とくに米国)から留学帰りの人々の人的リソースがその国の経済発展の鍵になるという言説はよくきかれる。このような「留学帰りエリート」のもつ重要な資質のひとつが英語力である。ここで、「英語力=経済発展の鍵=資本」という等式をもった言説であると言える(実際、中韓などでは「英語」が個人レベルでも企業・国家レベルでも資本として機能、ということはある)。


著者は、一方で、この等式は、日本では成り立たないと言う。英語教育は不振だったにもかかわらず、世界第二位の経済大国でありつづけたからである。ただし、近年の事情はすこし変わっており、日本の経済停滞の一因が英語力不足にされることが多くなってきた。


そういった事情から、日本の状況は経済と言語政策の関係を考える上で重要なそして興味深いフィールドであることを強調する。以下の節では、経済(学)的な側面から、日本の英語教育政策を検証する。(ただし、こうした問いは、応用言語学、言語政策・言語計画(language policy and planning)の研究に属するものだが、伝統的に、経済的な問題というのは周辺的なものなので、応用言語学べったりといった分析ではなく、応用言語学の視角を広げるくらいのスタンスで分析している)


分析対象の時期は大別して、1970年代〜2000年代前半と、2000年代後半以降である。前者は、著者曰く、英語教育不振にもかかわらず経済的成功をおさめていた時代である。日本の経済的成功の要因およびそれにもかかわらず英語教育が発展していかなかった事実が整理されている。後者は、経済大国日本というイメージがかげりだした時代である。そうした経済状況を反映して、種々の英語に関する教育政策および労働政策が提案されていることを跡づけている。

*1:"it is more than ever imperative for language policy studies to be well informed through interdisciplinary work within related fields, in particular, economics". p. 11.