タイトルのとおり、日本社会にはどのような英語をめぐるイデオロギーが浸透しており、英語教育・教育政策を規定しているか、ということを論じた論文。(イデオロギーが定義されていない気がしましたがおそらく、「"技術的ではない"という意味での政治的な考え方」くらいの意味)
収録元の Journal of World Englishes (English ではなくて Englishes が重要!)は、世界各地の英語をめぐる現象を扱った研究が掲載される雑誌で、したがって、読者には必ずしも日本の事情に不案内な研究者も含まれています。こうした性格を反映してか、同論文の記述も、全体的には「日本社会における英語(教育)論を紹介」というかんじで、英語教育論マニア(?)のひとにとっては、既知の事項も多いかも。
論文は、著者が述べているように、3部構成で、
- 日本社会のイデオロギー素描
- 日本人論と国際化言説
- 教育・指導法への示唆
というかんじ。
ところで、うえで「既知の事項も多い」と書きましたが、2つめの「日本人論と国際化言説」という分析枠組みは、かなり新しい(論文発表から15年近くたった現在ですら「新しい」)と思います。この視角は、同論文の重要な部分でもあり、ウリでもあると思いました。
「日本人論」は、おおざっぱにいえば、「日本人はXだ」という種類の言説の総称。「X」に何でもはいるかと言えば、そうではなくて、一定の傾向性があります。たとえば「日本人は『集団』を大事にする」とか「日本人は非論理的だ(欧米に比べて)」みたいな話。おそらく日本に生活していればよく聞いていると思います。日本の言論界において、とくに戦後に非常に流行し、現在もしょっちゅう聞きます。
一方で、こうした「日本人論ブーム」への反作用として、日本の人文社会科学では、「日本人論批判」もかなりブーム(?)になりました。有名な文献としては、ハルミ・ベフ著『イデオロギーとしての日本文化論』や、杉本良夫/ロス・マオア著『日本人論の方程式』、吉野耕作著『文化ナショナリズムの社会学』など。応用言語学の周辺分野では、牲川波都季著『戦後日本語教育学とナショナリズム』(→てらさわの読書ログ)。
というわけで、日本の学界ではアンチ・日本文化論はけっこうなマーケットなんですが、どういうわけか、英語教育研究では、「日本人論」という分析枠組みはあまり流行っていないと思います。あ、もちろん、枠組みとして認識されていないというだけで、無自覚の「日本人論」は、常に生産されつづけているわけですが。「日本人はシャイだから外国語が話せない」とか「日本人は上下関係にとらわれすぎ。 I/you という対等な関係で話し合える英語を通して、民主的な態度育成をすべきだ」みたいな話は一度は聞いたことがあると思います。
文献案内
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