こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

キミエ・タカハシ『言語学習・ジェンダー・欲望』

読んだ。

Language Learning, Gender and Desire: Japanese Women on the Move (Critical Language and Literacy Studies)

Language Learning, Gender and Desire: Japanese Women on the Move (Critical Language and Literacy Studies)

概要

オーストラリアに留学やワーホリでやって来た女性を対象にした、長期に渡るフィールドワーク(データは、インタビューデータが中心)。インフォーマントを、西洋や英語ネイティブ、白人男性に強い憧れを持った女性に絞り、彼女たちの恋愛感情や自己実現欲求をはじめとした種々のアイデンティティが、留学先の厳しい現実のなかでどのように葛藤・変容したかを分析。



以下、感想。

1. アイデンティティのダイナミズム

西洋・英語ネイティブ・白人男性への一見「不合理な」憧れを抱きつつも、留学先や日本社会の様々な困難(アジア人蔑視、「英語屋」さんとして職を探すことの難しさ、日本社会の女性差別)に直面しながら、たくましく「折り合いをつけていく」女性たちの奮闘が描かれている点は重要。とかく、「英語かぶれ」とか「名誉白人」とか(ひどいものでは「イエローキャブ」などと)過度に戯画化したイメージで(主に男性から)語られる留学女性の個人史と内面を丁寧に描き出しており、従来の「英語好き女性」言説に再考を促すものだろう。

2. 女性たちの生の声

英語への憧憬や白人との恋愛事情だけでなく、かなりセクシュアルな「生の声」が綴られている。これだけ赤裸々な声を引き出せるインタビューというのは、応用言語学のぶんやではなかなか見ないように思う(それこそ反社会集団に潜り込んで数年間一緒に過ごすみたいな人類学的スタンスじゃないと無理な気が)。かなりしっかりとしたラポールが形成できていたんだろう。その面で、「生の声」ハンドブックとしての資料的価値も高い。