こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

【統計調査】日本人は自分たちがどれくらい英語を使っていると思っているか

前回に引き続き、私が行った調査から知見を抜粋して報告します。

本記事が注目するのは、タイトルのとおり、日本人は自分たちがどれくらい英語を使っていると思っているかです。ちょっとわかりにくいかもしれないので、整理すると、

  • 「英語を日常的に使っている人は日本人の何%くらいだと思いますか?」
  • という質問を日本人回答者に投げかけたら、平均予想値はだいたいどれくらいになるか?

ということになります。(余計わかりづらくなったらすみません)。

日本人は英語使用者数を過大推定しがち

私の研究テーマのひとつが英語使用者・使用ニーズに関する統計調査です。

その関係で、英語使用者数の推定値を発表することがあります(例、拙著『日本人と英語の社会学』)。ただ、その際、結構な頻度で反発を受けることがあります。

自分がイメージしていたのと違ったと感じた人でも、推定の過程も考慮してくれる人の場合はそうでもないですが、推定の結果しか見ない人からは、なかなか熾烈な反応を受けることもしばしば。たとえば、「こんなに英語使用者が少ないはずがない」「グローバルビジネスをしている私の経験ではもっと多数の人が使っている」「こんな調査結果は英語学習者のやる気を削ぐだけだ」などなど。なかには人格攻撃めいたものもありました。

この手の「多目に見積もりやすい」という傾向は、政策文書・ビジネス言説でも同様です。 文部科学省や他省庁の発行する提言では、しばしば(具体的なパーセンテージこそ明示されませんが)日本社会に英語使用が大いに浸透していることを前提とする記述で溢れています。ビジネス言説などはもっと煽りがすごいですね(この状況を批判した『日本人の9割に英語はいらない』というベストセラーは有名です)

では、実際のところ、どれだけ人々は多目に見積もっているのか。 こうした問題意識のもと、日本人の英語使用者認知を調査してみました。調査の詳細は、こちらの報告書にくわしく書いてあるので省略します。

設問

設問は以下です。

日本人の英語使用に対するイメージ

現在の日本人の英語使用について、あなたがお持ちのイメージについてお聞きします。

現在、成人日本人の何%くらいが、仕事で英語を使用していると思いますか。日常的に(例、週数回以上)使っている人の割合として、最もあなたのイメージに近いものをお選びください。

以下のスライダを0%~100%で操作してください。(強調原文ママ

これはウェブ調査なので、スライダメニューが使えます(下記画像参照)。回答者は、スライダを操作して 1%刻みで答えます。

質問文のポイントは、仕事での日常的な使用を問うている点です。 つまり、「ちょっとだけ使った人」や「仕事以外(例、趣味や友人づきあい)で使っている人」は抜け落ちていることに注意して下さい。 言うなれば、ビジネス英語「ガチ勢」についてのイメージを尋ねているわけですね。

結果

では、結果を見てみましょう。

結果は以下の図の通りです。

図のグレーの棒グラフが、「日本人英語使用者数イメージ」の回答分布を示しています。

けっこうギザギザしていますが、一番高い山は 15-19% のところにあり、平均もだいたいこの辺り(のもうちょっと右)にあると想像できます。実際、計算してみると、平均値は22.9%でした。

つまり、5人に1人はビジネス英語「ガチ勢」というのが平均的イメージということですね。

どれだけ過大推定?

実はこの調査では、実際の使用頻度も調査しています(むしろそちらが主です)。

計算過程は少々ややこしいので、こちらの報告書に譲りますが、日常的に仕事で実際に使っている人のパーセンテージは、5.8%と推定されました。

図の赤い縦線 (Actual percentage (adjusted)) が実際の使用者割合を示しています。

以上をまとめると、英語使用者頻度を正確に見積もっている人あるいは過評価しているひとは、だいたい10人中3人程度であり、逆に、10人中7人くらいは過大評価しているということがわかりました。

もっとも、現実との乖離が10-20%程度であればそれほどたいした話のようには思えません(正確に社会を把握できる人は少ないですから)。一方、数十%以上の過大推定をしている人も全体の2割くらいはいます。こういう人たちが、どういう社会観・言語観で英語を眼差しているのかはけっこう気になります。1


  1. もっとも、90%以上を選んだ回答者はなんらかの回答エラーのような気もします。さすがに日本人の9割が英語を使っていると思っている人はいないでしょう。ただし、この調査では3問のトラップ設問を含めていて、不真面目回答者・不注意回答者はあらかじめ分析から除外されています。したがって、上記の数値はいちおう、「3つのトラップ設問に引っかからないような、きちんと質問文を読んだ回答者」の値です。