こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

1章: Introduction. (Horiguchi, Imoto, and Poole. eds. 2015. Foreign Language Education in Japan. Sense Publishers.)

昨年冬に出たこの本。


某誌で書評を頼まれて、実はけっこう締切が近づいているので、ここに読書ログをアップしていく。



ちなみに、この本、ざっと読んだ限りではかなりおすすめ。書名の通り、日本の外国語教育をテーマにした論文集だけど、注目スべきは、ほとんどの章を人類学者か、すくなくとも人類学的なトレーニングを受けた応用言語学者が寄稿している点。

日本の英語教育学(JALT含む)では質的研究 and/or フィールドワークが流行りはじめているが、個々の論文を読んでも多くの場合「うわあ・・・きついな・・・」という印象しかない。人類学者・人類学の院生にとってはごく当然のような「フィールドワーカーとしての覚悟」が感じられるフィールドワークはあまり読んだことがなく、多くはお手軽なインタビュー・お手軽な(授業)参観といった印象。まあ、「お手軽」研究になってしまうのは「質的研究の体系的トレーニングを受ける機会がないまま、学位取得のような差し迫った目的に対応せざるを得ないため」という構造的問題があるからだろう。

前述の通り、この本は人類学者が書いてるので当然ながらそういう「だらしなさ」が伝わってこなくて読後感がとても良い。

以下、第一章(Chapter 1. Introduction by Horiguchi, Imoto, and Poole の要約)

1.1. Voices from the field

本書のテーマ:complex and intricate relationship between the "local" and the "global"

1.2. The Japanese Case.

・本節(日本というコンテクストの説明)のキーワード
-Nationalism and Internationalism
-Global standards in education
-The symbolic nature of English-language education

・流れ
マクロ社会構造としてのネオリベ的グローバリゼーション

ELT Policy

公教育における英語教育(→英語格差、そして英語力という文化資本も含む)

・日本の英語教育におけるグローバリゼーションは、ナショナリズムの色彩が強い(「グローバル化の荒波に生き残る強い日本人」の育成)

・「日本の英語教育は失敗 failure」言説の果たす役割

1.3. The cultural debate surrounding foreign-language education in Japan

・Cultural debates
・「日本の英語教育のここがダメ!」みたいな話は昔から散々言われてきた:e.g. Loveday (1996)
・多くの人が「日本のダメな理由」としているものは実際、他国の高等教育にも当てはまる
・overgeneralization: 日本人/アジア人のメンタリティに関する決めつけ(→Oxford et al. 1992)

1.4. Calls for qualitative, collaborative approach

メソドロジー関連の議論

・Qualitativeを基本線とする。ただし、positivistic / processual という2つの異なるアプローチが同居しており無理に統一することはしていない

・Powerの問題、すなわち Critical approach を重視

・Dialogue between Applied Linguists and Anthropologists

・「海外でトレーニングを積んだ日本人研究者」と「日本で活動する外国人研究者」が寄稿。「生活的出身地」と「学問的訓練を積んだ場所」が食い違う、つまり Japanese/non-Japanese の境界を超えるようなauthorshipが特徴