こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

日本における小学校英語の政策形成過程(Butler 2007)


Butler, G. Y. 2007. Foreign Language Education at Elementary Schools in Japan: Searching for Solutions Amidst Growing Diversification. Current Issues in Language Planning, 8 (2), pp. 129-147.


研究機関のレポジトリからダウンロード可能:http://repository.upenn.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1002&context=elmm


章立ては以下のとおり。節見出し番号は寺沢が勝手にふりました。

1. Introduction
2. The Historical and Social Background of English Education in Japan
3. The Process of Introducing English at Elementary Schools
3.1. Initial discussion of EES (early1990s to 1997)
3.2. Planting the seeds for the introduction of EES (1998?2001)
3.3. Preparing to make EES compulsory (2002?2006)
4. The Complex Reasons Underlying the Decision to Implement EES
5. Potential Effects of MEXT’s Current Decision Regarding EES
6. Conclusion

1990年代から2000年代中頃にかけて、小学校への英語教育導入の政策がどのような政治的・社会的ダイナミクスによって進行したかを記述した論文。このような記述作業は、日本語文献ではしばしばなされていると思いますが、本論文ほど簡潔に整理しているものはあまり知りません。逆に、日本国外の言語政策研究者を想定読者とした論文で、これほど体系的に、日本の小学校英語政策の形成過程を跡づけた研究も少ないと思います。そういう点で、重要な論文だと思いました。

小学校英語政策に影響を与えた8つの要因

個人的におもしろいと思ったのは、政策形成への影響力として、8つの要因をあげていること。いくつか、おやっ!というものもありました。


8つの要因とは以下のようなもの

  1. グローバル経済における英語のパワー
  2. 日本社会の英語熱
  3. 従来の英語教育に対する国民の不満
  4. 学歴達成の手段としての英語
  5. 小学校英語教育政策は地方自治体の「売り」になる
  6. 同じく、小学校にとって、英語教育をやっていることは「売り」になる
  7. 「英語を学べばNEETにならない」的な推進派の主張
  8. 小学校英語をめぐる教育機会格差の拡大


最初の4点は、日本の英語教育論ではおなじみのものですが、後半の4つはけっこう新しいものが含まれているんではないでしょうか。


5点目・6点目は、なんといっても、新自由主義的な教育が進行するのと同じタイミングで、小学校英語政策が議論されたことと関係深いでしょう。10年早かったら、こういう論点は出なかったかもしれません。


あと、7点目。「なんじゃこりゃ!」と思う人も多いかと思います。念のため言っておきますと、著者がそういう主張をしているわけではありません。推進派の一部には、そういうロジックが重宝された、ということです。引用文献などを引いて、直接的に批判などはしていませんが、あの名著『ニートって言うな!』を引いていますので、この考え方に批判的であることは確かです。