こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

日本における「国際化と英語化」の矛盾(Kubota, 2002)



Kubota, R. (2002). Impact of Globalization on Language Teaching in Japan. In D. Block and D. Cameron (Eds.), Globalization and Language Teaching (pp. 13-28). Routledge.


書名を見ればわかるとおり、地域研究(日本研究)の本というわけではないので、日本社会のことを知らない人も想定読者として念頭にあるようである。いきおい、「日本の紹介」という記述が続く。記述は手堅いので、日本の言語政策にそれほど明るくないひとにはよいイントロダクションだろう。


まず、「(ほぼ)単一民族・単一言語社会」などと言われた ---アイヌの絶対数の少なさをもって「ほぼ単一」と表現しているのだろうが、そもそも沖縄や在日コリアンの存在を念頭におけば「ほぼ単一」という表現すら成立しないわけだが--- 日本。しかし、近年、グローバリゼーションの影響をうけて*1、日本社会が急速に多言語化しているという事実を紹介している。周知のとおり、この「多言語化」は、多くの場合、英語以外の言語の話者が増加したことによる。そうした「人口統計的実態」とうらはらに、日本の外国語教育政策は、ほぼ英語に独占され、多言語化が進む現在は、さらに英語教育の独占化を強めていると指摘している。


グローバル化/国際化と英語化(および英米規範の護持)の矛盾を鋭くついた論文である。


※なお、タイトルの文言「日本の言語教育」が象徴しているとおり、英語教育だけの話ではなく、日本語教育の話もちょっとあり。


章立ては以下の通り(節番号はてらさわが勝手にふった)

1. Ethinic linguistic diversity in Japan
2. The discourse of kokusaika
3. Kokusaika and education reform in the 1980s and 1990s
4. Foreign language education in Japanese schools.
4.1. 'Foreign language' is 'English'
4.2. The model for 'English' should be standard North American or British varieties.
4.3. Learning English leads to 'international/intercultural understanding'
4.4. National identity ought to be fostered through learning English
5. Japanese culture and language in teaching Japanese to speakers of other languages.
6. Resistance and criticisms against Anglicism
7. Conclusion

Globalization and Language Teaching

Globalization and Language Teaching

*1:直接的には、外国人労働者に関する法改正が急増の契機だが、これもグローバリゼーションの一環にはちがいない。