こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

おかしな記述(In 国際ジャーナルに載った論文)

Sullivan & Schatz (2009) の論文を読んでいておかしな記述があったのでメモおよび指摘。


我ながら重箱の隅をつつくような指摘だと思うけれど、僕の博論の根幹に関わるところだし、指摘せずにはいられない。個人ブログなんだから揚げ足とってもいいじゃない、人間だもの。


おかしなのは以下の部分。448ページ。

After Japan's surrender in 1945 ... [t]he Education Department (referred to as Monbusho) strove to improve English instruction and reestablished English as a requirement in junior high schools (Iida, 2002; Koike & Tanaka, 1995; Sasaki, 2008).


戦後になって、中学校の英語が "reestablished" つまり、再び制度として必修(あるいは選択必修)になった事実などはない。


戦前の旧制中学校と、戦後の新制中学校は別物であり、系譜上も違う学校種だからだ。
単に学校のラベルが一緒であるに過ぎず、両者を比較することに実質的な意味はない。


教職課程などで(日本)教育史の授業をとったことがある人ならよく知っている話だと思うが、新制中学校の事実上の前身は旧制高等小学校であって、旧制中学ではない。一方、旧制中学校の後身は、新制高校である。


さらに、専門家でない人にここまで求めるのも酷だと思うが、戦後初期の数年間は、新制中学校における外国語の運用は、制度上だけでなく実態としても選択制だったので、"requirement in junior high school" は言い過ぎである。


たぶん著者たちは日本語をあまり読まない(読めない?)方のように思うのだけど、英語で書かれた先行研究を自分なりに整理しているなかで、予断が入ってしまったのか、それとも、先行研究自体がそもそもおかしかったのか。


  • Sullivan, N. & Schatz, R. T. 2009. Effects of Japanese national identification on attitudes toward learning English and self-assessed English proficiency. International Journal of Intercultural Relations, 33 (6), pp. 486-497.