こにしき(言葉・日本社会・教育)

関西学院大学(2016.04~)の寺沢拓敬のブログです(専門:言語社会学)。

加藤周一ら「中学校英語の必修化」論争であまり言及されない資料

1950年代なかばに、加藤周一の中学英語必修化批判に端を発した、英語教育論争があった。(発端は、岩波書店『世界』に寄稿した「信州の旅から」)


ただ、加藤周一ファンにはかなりマイナーな論争で(逆に、英語教育関係者にとっては加藤周一のこれ以外の文筆活動はマイナーだ)、あまり資料も再録されていない。現に、発端の論文「信州の旅から」は、「信州旅日記」と改題されて加藤周一著『雑種文化 ―日本の小さな希望―』(1956年9月、講談社)に再録されたものの、加藤ファンからあまり人気がなかったのかなんなのか、同書の文庫化に際し、別の論文に差し替えられている。


英語教師のなかで「加藤周一論争」を紹介する人はたまにいる。ただし、ほとんどの場合、登場する人物は、加藤にくわえ、中橋一夫(英文学者)と臼井吉見(評論家)の計3人だけである。これはたぶん、川澄哲夫編(1978)『資料 英語教育論争史』バイアスだと思う。つまり、同書に再録されているのが上記の3人だけなのだ(つまり、多くの人は同時代の資料を読んでいない)


前口上が長くなったが、当時の新聞を見ると、もう少し多様な人物によって「論争」が行われている。
今日はそのひとつを紹介。



『読売新聞』1955年11月25日、朝刊、8ページ


登場人物は、加藤にくわえ、作家や英語教育関係者など、計5名。
見出しだけ拾う。()内の肩書は、本文ママ。

言い出しっぺ
加藤周一(文芸評論家)
義務教育化は有害 ―9割の子に余計な負担
どちらかといえば加藤派(必修化に反対)
阿部知二(作家)
外国崇拝を警戒 ―義務化 中学では必要なし
森一郎(東京都豊島区立長崎中学校長、東京都中学校英語教育研究会副会長 ---長い!)
国際理解を ―英語のために他を犠牲にせず
どちらかといえば反加藤(必修化に賛成)
後藤哲也(東京都教育庁指導主事[英語])
近視眼的な見方を排す
小松直行(東京都立白鴎高校長)
特権階級の英語でない